黒坂岳央です。
コスパ、タイパという言葉が市民権を得た現代、何でもかんでもコスパコスパという人に距離を置く風潮が出てきた。いわゆる「コスパ厨」である。
もちろん、ある程度コスパを考慮することは悪いことではないし、ビジネスでは必要な考え方でもある。しかし、行き過ぎたコスパは一周回ってコストを落とすことが目的化して、パフォーマンスが落ちてしまうという矛盾を抱える。
本稿では人生の幸せを減らすコスパ厨について考えたい。
コスパ厨はやりたいことがない
そもそも、なぜコスパ厨になってしまうのか?自分は理由が2つあると思っている。1つ目は彼らは心から燃え上がるような本気でやりたいことがないのだ。
本気でやりたいことがある時はコスパなど気にしない。本気で恋愛している人は「恋愛はお金がかかるから別れます」とはならないし、人生をかけてビジネスをする人は「技術書を買って勉強したいけど、お金を出して買うのはコスパ悪いから図書館に出てくるまで待とう」とはならないのだ。
人生で本気でやりたいことが何もない人にとって、資産を最適化するプロセスは娯楽そのものである。厳しい言い方をすると多くの場合、単にケチなだけである。彼らは日中は仕事で忙しいが、余暇時間は受け身の暇つぶし消費しかすることがない。つまり、人生全体でいえばやることがなく暇を持て余しており、暇だからこそ節約からの資産増加というゲームにハマっているというわけだ。
しかし、本当にコスパを考えるならケチケチするより大胆に必要な投資をするほうがよほど儲かる。手前味噌のようでおこがましいが、自分は独立してサラリーマン時代に比べて大きく収入が増えたので、筆者にとっては「多額の資本を必要しないスモールスタートで独立する」が一番コスパがいいと感じる。そこまでしなくても余暇時間に勉強をしてスキルアップから転職をすれば、年収を上げることは頑張れば十分現実的なはずだ。
だがコスパ厨はとにかく出費を抑えることしか考えていない。その証拠に彼らは買い物をする時に低価格のものを異様に高く評価する。独立して頑張って稼ぐ方がケチケチ生活するよりトータルリターンが明らかに高いのに、そこには目を向けずパフォーマンスを無視する矛盾を抱えている。
彼らがやりたいのはパフォーマンスを高めることではなく、コストを下げることだけだ。それこそが「ケチること以外に人生で特にやりたいことがない」から来ている行動なのである。
コスパ厨はトータルリターンを考えない
コスパ厨になる2つ目の理由は、彼らがトータルリターンを考えないからだ。
本来、コスパという言葉は「コストとパフォーマンスの良いバランス」ということである。だから安くてもパフォーマンスが悪ければそれはコスパが悪いということになるし、仮にコストが高めでもパフォーマンスもそれ以上に高ければ同様である。だがコスパ厨の過ちはコストしか見ないことでパフォーマンスも下げてしまっている。
たとえば「とにかく1円でも旅行を安く済ませたい」という人は一定数いる。個人旅行なら好きにすればいいが、団体旅行でこれをやられると一緒にいて興ざめしてしまう。昔、一緒に旅行に行った友人でコスパ厨がいて対応に困ってしまったことがあった。せっかくめったにいかない旅行先に行くのだから、多少割高でも食事を楽しみたいと思っても「高いから」とコンビニのパンで済ませ、みんなでホテルに行く中、車中泊で済ませる。
確かにコストを抑えて観光地巡りという目的を最大化できるかもしれない。しかし、旅行の醍醐味は観光地で過ごす時間だけでなく、宿泊先での食事や語り明かす時間だと思うのだ。そこを削ると、思い出というパフォーマンスまで落とせば単なる「移動」と「食事」のための行為になる。そうなればトータルリターンは著しく下がる。でも彼らが気に留めないところを見るに、ケチる快感が旅本来の楽しさを上回ってしまい、「こんなにお金使ってもったいない」と旅行を楽しむ感度が著しく低下しているのだろう。
また、日常的な例でいえば「食費や教育費を削る」という行為だ。「肉や魚は高いから」と炭水化物中心の食事にすると、パフォーマンス低下や病気の原因になりトータルで損をする。教育費を削るとスキル向上せず、給与など稼ぐ力を落とすのでこちらも損をする。値段が張っても栄養価の高い美味しい食事をして、書籍や勉強には果敢に投資をすることがコスト以上にパフォーマンスを高く出せるのは言うまでもない。
◇
コスパ厨は誰もがかかりうる病だ。子どもの時からコスパ厨な人など誰もいない。やりたい時にやりたいことをすぐする。だが周囲から「人生は甘くない」「我慢していきなさい」という言葉を受け続けることで、挑戦する前にやりたいことを引っ込め続け、いつしかやりたいこと自体が湧き出さなくなってしまう。それは潜在的に自分の可能性を信じられなくなっているという気の毒な状態なのだ。
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