情報疲れ:濃い色のついた情報があふれた現代

本を読まなくなったというニュースは嫌というほど聞かされます。日経では1日1店舗、書店がなくなると報じています。本を読まなくなった理由はスマホの便利さとその情報量とアクセスのしやすさが人の時間を略奪したからでしょう。

一方、目に留まったのがフィナンシャルタイムズの「民主主義脅かすニュース離れ」という記事。民が日々のニュースに疲れ、読まなくなったことで選挙の情報を正しく理解することが出来ず、民主主義を根本から脅かすというものです。

確かにヤフーニュースをはじめポータルサイトのニュース欄には同じようなニュースがずらり並びます。AIがそのようなニュースを選択してくることがその理由。そうなると例えば選挙戦が繰り広げられるこの時期、ニュースのポータルサイトはずらり選挙関係のニュースが並びます。

もちろんそれは私が過去に1つか2つ、その関係のニュースをクリックしたので「お前は選挙に興味があるのか?よしよし、では選挙関係の情報をもっと送り込んでやろう」とAI大魔神様が見事に選挙関係のラインアップにしてしまう訳です。私は正直、「くそっ!こんなもの消えてさっさとデフォルトの状態に戻せや!」と言いたいのですが、AI大魔神を消して「元の平和な世界に戻る」というボタンは何処にも存在しないのです。

ploy/iStock

その点日経オンラインはまだ上品にできていて、AIで選択されるニュース欄はごく一部に限られ、あとは基本的に日経が独自で編集した形になっています。

ご記憶にあると思いますが、新聞紙面で最高の技術は編集にあったと言ってよいと思います。タイトルが縦書き、横書き、背景のデザインにフォントやそのサイズ、配置を含め、読み手の目をどれだけ惹きつけるかが勝負の中で長年の経験で極めて高いレベルの編集技術を「装備」していたのです。それがアマゾネス「女帝ネット様」が降臨してきてそれらの装備を破壊し、アマゾネスは新聞を過去の産物に追いやったのです。

するとポータルサイト系のニュース一覧にあるように無味乾燥な「よく読まれたニュース」一覧では経済政治から文化芸能まで無秩序に並ぶので読み手が疲れてしまうのです。「うーん、この一覧、一応全部下までチェックしておかないと」という強迫観念であります。多分多くの皆様はヤフーのニュース欄をとりあえず一番下までスクロールしてあと右側の読まれたランキングに目を通し…ということをされていると思います。要はそこには80-90%の興味がないニュースに10%の読みたいニュースが隠されており、お宝さがしを毎回しなくてはならないわけです。しかもそこに到達するのに実に魅力的なタイトルの他の記事に思わず「ちょっとこの記事、覗いて見たいな」と浮気心を誘うものがあり私の行く手を阻みます。ようやく目的の記事にたどり着いたころには電車は目的地に到着し「時間切れ、終了!」、「マジ、もう読めなかったじゃないか」となるわけです。

我々はなぜ、ここまで情報に執着するようになったのでしょうか?芸能人の離婚話や興味ないスポーツの選手の話題は全部スルーするもリアルトークの際、「えー、ひろさん知らないの??」と言われるのです。これはネットニュースに限らず最近はコミュニティの出来事がSNS情報で展開されやすくなっています。その為、私のようにバンクーバーの日系コミュニティにどっぷりつかっていると確信していてもたまたまリアルで会話をすると「えー、マジ?知らなかった」という話ばかりで「オーマイガット、My name is 浦島太郎」だと自らの認識を変えざるを得ないのです。

そこで焦ってそのかすかな情報を基にあちらこちら調べて「あー、なるほど、そういうことなのね」とようやくキャッチアップできるのです。正直、SNS難民である私にとってこのリアルワールドでの裏付け調査はなかなか時間もエネルギーも必要だし、時としてビールをおごると言って誘い出して情報取得する必要もあり、金もかかるのです。

これを情報疲れと言わずしてなんと言いましょうか?ではなぜ、情報化社会においてなぜこんなに情報疲れするのか、と言えば新聞というコンパクトにまとまり20-30分で大方全体像がつかめるものがなくなったのです。

日本の実家に行けば読売新聞があります。そこには懐かしい折り込み広告があり、新聞の記事分量も比較的短めながらあらかたの情報はさっと取得できます。いわゆる一般紙はこの傾向が強く、日本人の情報を支えてきたと思います。一方、最近の日経のネット記事は長文も多く興味ある記事は良いのですが、読み込むのに時間がかかり他の記事に手が回らないこともあります。日経ビジネスも同様であまり意味がない内容をぐずぐずと紙面の分量稼ぎのような記事にしていることもしばしば見受けられます。

情報発信者は読み手が手短に正しく、そして中立的な情報を得られるようにすべきでしょう。初めから濃い色のついた情報を目にすると情報が正しく理解されないわけでそれが世の弊害を生んでいると言ってもよいでしょう。民主主義を脅かすニュースとはそういうことであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月25日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。