この拙稿が掲載される頃、トランプ氏の次期アメリカ大統領の当選が確実になっているでしょう。
私は過去3年ほど、外れることを祈りつつ「やばトラ=トランプ再選」を予想してきました。
だいぶ前、オバマ氏が大統領になった時、地元シカゴにいるオバマの有力支援者と、取材で親しくなり、長年の友情を育んできました。
見れば分かる認知症初期症状。どうにもならない老害バイデンでは勝てないと、民主党内部でも論争が激しくなり、早めにトランプとの対決をやらせてバイデン氏本人に自覚させ、早めに降ろす方法を有力者らが画策しました。オバマ氏が中心となり、バイデン氏への説得工作が関係者によって進められた。その結果、オバマ側近からも私は情報を得て、「バイデン降ろし」を公表の3日前に、私は報道しました。
バイデン氏が降りることで、民主党側は盛り上がり、ハリス氏を支持する大手メディアの多くが一時期ハリス優位を期待感も込めて大きく報道しました。
しかし、それが単なるバブル的なもので、経済を中心としたハリスの中身のなさなど、実態を知る私はハリス優位を言ったことは一度もありません。
共和党予備選でも確信しましたが、トランプの優位を過去3年ほど実感してきました。残念ながら、私はトランプ再選を予測し、機会がある度に「やばトラ」=トランプ再選を書いてきました。
トランプ再選で懸念されることが2点あります。
まず、「日本の国防」に直結する日米関係です。既に決定しているはずの防衛費のGDP2%増額を、3%ほどにまで引き上げる要求が迫っています。台湾有事の抑止に間に合わないと見越して、2年ほど前になりますが、岸田総理は、野党の反対により時間がかかる国会の議論もなしに、バイデン大統領に防衛費増額とミサイル購入を一方的に約束しました。これは、トランプが再び政権を握る今、さらなる圧力をかけられる布石にもなります。
さらに、これまで内政干渉になるため、米国側が明言しなかった憲法9条の改正も、トランプに強く迫られる可能性があります。
過去、メイン州での演説でトランプ氏は「アメリカは日本を守るために血を流すが、日本人はただTVを見ているだけだ」と発言し、賛否を巻き起こしました。
10年ほど前までの冷戦時代と異なり、現在は米軍基地の提供だけでは、アメリカへの同盟国としての軍事力による貢献が不十分とされています。日本が「ただ乗り」と言われる状態を続けられる状況ではありません。
安全保障の現実を知らない日本人が多すぎます。日米安保条約は軍事同盟であり、世界の軍事同盟の常識は必要であればお互いに血を流して守り合うことです。しかし、日米条約だけは、日本が基地を提供する代わりに米国が有事の際、日本を守る義務を負い、日本は憲法9条を理由に有事でも米国を守る必要がないという、人類史上他にはない特別な片務条約です。
米国人の多くや米議会ですら、そんな信じられない片務条約が日米間に存在することを知りません。もし知ったら、日本にも米国の防衛義務を求める内容に改正される可能性が高いでしょう。一部の日本人が主張する、日米地位協定の不平等性や改定すべきだとの意見も、逆に日本に不利になる可能性が高く、日米両政府とも改定案を米議会に持ち出せない状態です。その代わり、問題が起きるたびに日米委員会で調整してきたのです。
安倍元総理は、世界の軍事同盟の常識である「集団的自衛権」の必要性を認識し、一部容認を閣議決定で押し切りました。
信じられないことに、トランプ大統領誕生が「自立した日本」への良い機会として歓迎されている人もいます。しかし、対米自立にはまず安保条約の破棄が必要です。
具体的なシナリオを教えていただきたいものです。対米自立には、まず安保条約の破棄が必要です。米国政府に複数回確認しました。1年の事前通告で相互に可能です。世界に類を見ない片務条約で米国に守られ続けるならば、自立した「主権国家」日本はあり得ません。
平和に慣れ親しんだ日本人には、理解しにくいかもしれません。私が直接取材したベトナム、アフガニスタン、イラクなどの戦争体験者が米国には多数います。戦死者はもちろん、手足を失った人や、PTSDで10年以上経っても精神的に苦しむ人も多く、家族や近親者、友人などもその影響で苦しんでいます。
戦争の善悪論は別として、何らかの理由で戦争が起こった場合、皆が祖国のために戦う。同盟国であれば「お互いに守り合う」のが、日本以外の世界の常識です。敵の銃弾を受けている時に、自国は「9条があるので戦わない」「米軍さん日本を守って」として、援護を拒否するような状態では、軍事条約上の同盟国とは言えませんし、自立した主権国家とも言えません。
自国が戦争しない平和主義であり、憲法9条に基づき戦争をしないとしながら、逆に自国が守られる際には米国のために動かないという形が、トランプを選出した内向きで自国優先の米国民・米議会に許されるはずはありません。これまでの歴史・経緯を米国政府が説明しても、米国民はまず納得しないでしょう。
「独立自尊の日本」を掲げるのであれば、まず日米条約を破棄するのが第一歩です。その際に、日本は自国を守れるのか、という問題があります。現在、国民の危機意識が希薄であり、自衛隊員も足りず、弾薬も3週間程度しか持ちません。9条の看板を掲げ、日本は戦わない平和主義の国ですと、命乞いをするのでしょうか?
それとも、究極の選択として独自の「核武装」を行いますか?その場合、米国が最大の敵国となり、経済制裁を受けるでしょう。
私は基本的にいまは反対ですが、核関連は全てタブー、核アレルギー日本が、自国の独自防衛を真剣に考え始めたことを示す。議論そのものは必要でしょう。中露北に対する抑止になり、米国にも意味があるシグナルになり得る。
スイスのように永世中立国を宣言し、侵略しないように願うのも1つの方法ですが、先の大戦やウクライナ戦争の時のスイスの言動を学べば、それがあまりにも日本にとって現実的でないことが理解できるでしょう。
外交交渉で自国の平和を維持することは可能でしょうか?外交と軍事力は車の両輪、常に同時に動いています。外交努力は常に行われています。だがそれが破綻することもあり得ます。過去の歴史を学べば、外交だけによる平和維持が残念ながら不可能であることがわかります。
地球は多極化し、アフガン、イラク戦争の失敗もあり、米国の国力が低下しつつある中で、中国やロシア、北朝鮮、イランなどの反米勢力は着実に力を増しています。一部のグローバルサウス諸国もこれに同調し始めています。
米国が掲げる民主主義や人権など理想的なものよりも、経済など目先の利益が優先される現実があり、中国に同調する国も増加しています。
そんな中、トランプ氏は以前からNATOとの同盟関係を軽視し、在韓米軍の撤退すら示唆してきました。彼の外交姿勢は常に「自国=自分第一主義」です。
さらに今までの言動から考えると、トランプは自分のことは自分でやるべきという考えを強く持ちます。例えば日本が自国防衛に米国の軍事力に依存することには基本的反対です。これまでの世界の民主化のために日本防衛をするという綺麗ごとの考えは否定。防衛してやるからお金を出せとか、代わりになにか取引できるものをよこせという分かり易い理屈で動きます。
一方、日本国内には、先の戦争の反省とトラウマから「戦争=絶対悪」「原爆=反対・廃絶」を唱えるだけに留まり、抑止力を考えないで思考停止に陥っている人々がまだ多くいます。
憲法9条は1945年に日本の侵略を防止する目的で米国が日本に押し付けたものです。しかし、現在の国際政治の環境で、中国など他国による日本への侵略防止には一切役立ちません。それどころか、国際的には意味をなさない9条や平和主義、専守防衛などが、かえって他国の侵略を助けることになりかねません。
また、日本には「平和主義」を掲げる限り侵略を受けないとする楽観論が根強く残っています。
トランプ氏が新たな大統領に就任することで、日本は「平和ボケ」から覚醒する機会を得るかもしれません。
外交・安全保障、日米関係への理解が不足したままトランプ氏を支持してきた一部の無知な日本人は、彼の政策が実行されると後悔することになるかもしれません。しかし、その時にはすでに遅いのです。
石破総理の主張もここで付け加えさせて下さい。石破氏はアジア版NATO さらに日米地位協定の改定を主張しました。
彼の主張には以下のような批判が予想されます:
- 中国・ロシアの反発
アジア版NATOは「反中軍事ブロック」と見なされ、中国・ロシアは新たな冷戦体制の構築として強く反発します。 - ASEAN諸国の慎重な立場
ASEANは米中間のバランスを重視しており、軍事ブロックへの参加には慎重で、分断リスクが高まることに懸念を示す可能性があります。 - 米国からの批判
トランプはかつて「米国有事に日本人はTVを見ているだけ」と批判し、日本の防衛姿勢に不満を表明しています。地位協定改定の前にまず日本が自ら同盟国のために動けるように憲法9条改正を行い、日本自身の防衛負担を増やすべきとの主張もあります。特に米国はまだ良いが、上上記のASEAN 諸国と組む場合、米国が許しているような、日本が9条言い訳に相手の同盟国を守らない。そんな姿勢なら、どこの国も相手にしません。逆の立場なら簡単に理解できるはずです。 - 日本国内の反発
日本国内でも、軍事的負担が増す懸念からアジア版NATO構想には批判が出る可能性があり、9条を盲信する人々らが反発するでしょう。
これらの構想は、国内外で賛否が分かれる難しい課題といえます。
トランプ再選にはもう1つの懸念があります。
ミシガン州デトロイト郊外のディアボーンを再び訪れ、アメリカ最大級とされるモスクにも足を運びました。9.11を受けてのアラブ系攻撃やイラク戦争中の彼らの反応などの取材も行い、過去20年くらいに渡る米国内のアラブ社会の取材。今回で確か4度目の訪問でした。
しかし、今回のトランプ再選に関して、アラブ系コミュニティが決定的な誤りを犯していると感じざるを得ません。
もちろん、彼らの責任ではない部分もありますが、非常に非合理的な判断を下してしまったのです。
残念ながら、日本のメディアもこの点についてあまり触れていないように思います。
ガザ情勢が非人道的であることは明らかで、罪のない子供や女性が虐殺されるなど、まさに「民族浄化=ジェノサイド」と言える悲劇が続いています。ネタニヤフ首相は、個人的な事情から戦争を止めにくい立場にあり、比較的に人道的な姿勢を示していたヨアヴ・ガラント国防相を先ほど解任しました。
ハマス幹部の殺害後も、人質救出を口実に独裁的な暴力が止むことはないでしょう。
そのような状況下、ディアボーンのアラブ系住民たちは、バイデン・ハリス政権への不満からトランプ支持に転じましたが、これはトランプ勝利の要因の1つとも言えます。
しかし、ここで冷静に考える必要があります。これまでのトランプ氏の言動や政策から、彼がイスラエル・パレスチナ問題でアラブ系の期待に沿う政策を打ち出す可能性は極めて低いでしょう。バイデン政権でさえパレスチナ寄りと見なされている中、トランプ氏はむしろ圧倒的にイスラエル寄りです。
具体的には以下の事例が挙げられます。
- エルサレム首都認定と大使館移転:エルサレムをイスラエルの首都と認定し、米大使館を移転
- ゴラン高原の主権認定:シリア領とされるゴラン高原をイスラエル領と公式に認定
- アブラハム合意成立:UAEなどアラブ諸国とイスラエルの国交正常化を推進 (見方によって新イスラエルと言えない部分もある)
- パレスチナ支援の縮小:パレスチナ自治政府と国連機関への資金支援を大幅に削減
- 「中東平和計画」発表:イスラエルに有利な和平案を発表し、パレスチナ側から反発を受ける
上記のように、トランプ氏はイスラエルを全面的に支持してきました。
過去の発言で有名なものもあります。不動産で一応成功したトランプ家のビジネスを経験したトランプ氏は、あれだけ廃墟になっているガザ周辺地域をモナコのような観光地にできるかもということを示唆しました。驚きです。
バイデン政権のハリス副大統領が「二国家共存」を訴えているのに対し、トランプ氏がその方向へ進む可能性はありません。
実際、バイデン政権と比較しても、トランプ氏の姿勢ははるかに反パレスチナ的であり、反アラブ的です。にもかかわらず彼を支持するアラブ系住民の姿は、到底正気の沙汰とは思えません。
少ない可能性ですが、アブラハム合意の延長として、トランプ氏がイスラエルとサウジアラビアの間を取り持つことはあり得ます。しかし、それは現在のガザなどでの虐殺を止めることに直接つながりません。