オリンパス事件の追及で一世を風靡したFACTAが、今回は慶応大学、金正勳准教授経歴について追及している。
こういう話は、大体初動を間違わなければ大事に至る事は少ない。精々タバコの火の不始末で座布団を焦がす程度で収まるものである。
しかしながら、火事が発生しているにも拘わらず、「火事など存在しない」みたいな事を言って傍観していると、家が焼失してしまったり、風が強ければ隣家に燃え移って大惨事になってしまう。今回の慶応の一件はどうも後者の展開を辿る気がする。
慶應義塾の塾長、清家篤氏に申し上げたい。そりゃ、ないでしょう。大学院政策・メディア研究科の金正勲特任准教授の経歴詐称疑惑について、本誌の7項目の質問状に対する塾の返答は、およそ教育者たる資格があるのかと思われるほどのひどさだった。1)~7)の質問にはお答えできません。たった1行、これだけである。
私立大学とは言え、国から補助金を貰っている以上立派な社会の「公器」である。納税者が疑問に感じている事に対し、FACTAの如き硬派なジャーナリズムが調査しようとする事は極めて健全である。従って、慶応大学がこれに協力する事は極めて当然だと思うのである。
今回FACTAが提出した7項目の質問を読んでみたが、慶応大学の木で鼻を括った様な回答に結び付くような劣悪なものとはとても思えない。
1) ハーバード大学、オクスフォード大学、ドイツ連邦国防大学等に確認したところ、修正前の経歴はいずれも事実でなく、修正したのはその指摘を受けたからでしょうか。
これは単なる事実確認の要請である。YesかNoで応えれば良いだけの極めて事務的な話であり、何故答えられないのか極めて不思議である。それにしても、「ハーバード大学」、「オクスフォード大学」、「ドイツ連邦国防大学」と言うのは何となく慶応好みと言うか、中身よりもラッピング重視の如きを意地悪く感じてしまう。
2) 単なる誤記とは考えられず、詐称と考えますか。当研究科はこの経歴問題の事実経過や紹介者を調査し、金准教授の解任など関係者の処分を検討していますか。
「信賞必罰」は世の中の常識。慶応大学の統治機構が一体どうなっているか疑問に感じる。
3) 金准教授は政府のIT戦略会議などの民間委員の肩書を持っていますが、経歴詐称の人物を政府機関に送り込んだ責任は誰にあると考えますか。
これも尤もな質問である。事が国益毀損に及ぶとすれば、IT戦略会議主管の総務省も文科省の問題、対岸の火事と傍観するのではなく調査すべきであろう。
4) IT戦略会議などの政府資料が韓国などに漏れているとの指摘があり、金准教授が流したかどうか研究科として調査していますか。
仮に本当ならPOSCO問題等より遥かに重篤である。
5) 金准教授は韓国のNAVERとの関係(親会社の諮問委員)が指摘され、住居も六本木ヒルズとされ、その収入について疑問が出ています。研究科は彼の背景を調べましたか。
妬みではないが金准教授随分と金回りが良かった様である。この際、背後関係は調査すべきであろう。
6) 中村伊知哉、国領二郎教授らと金准教授は親しい関係と見られますが、有力教授とはどう関わっているのでしょうか。
「李下に冠を正さず」と言う諺もある訳で、この際しっかり説明すべきと思う。
7) 金准教授はメディアコミュニケーション研究所に学生と金正勳研究会を持っています。学生には今回の経歴問題をどう説明しているのでしょうか。
仮に疑われている「経歴詐称」が事実であれば、典型的な「羊頭狗肉」であり、露骨に言ってしまえば「詐欺」である。スーパーが「神戸牛」と偽ってオージービーフを販売すれば一発で「営業停止」と思うが。
私は前回のアゴラ記事、日本から大学が消える日 で説明した通り、東大の如き一部の大学を例外として、大学に行く事は「金」と「時間」の無駄、浪費と考えている。
従って、今回の件に関しての見方は些か厳しいのかも知れないが、それにしても慶応大学は、「質問にはお答えできません」の如き悪い冗談ではなく、きちんと学生、国民、社会そして国に説明すべきと思う。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役