独で多発する襲撃テロ事件と「総選挙」

ドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンで13日午前、霧雨の中、小型車のクリーム色のミニ・クーパーが労働組合の約1500人のデモ行進の最後尾に突っ込み、デモ行進に同行していた警察官が運転中の24歳のアフガニスタン人のファルハド・Nに向けて発砲し、車を止め、逮捕した。警察によると36人が負傷した。その中には2歳児の重傷者がいる。

犠牲者を追悼するゾーリンゲンの市民(オーストリア国営放送の中継からスクリーンショット=2024年8月25日)

ミュンヘンの検察当局は14日、Nの犯行動機について、「取り調べ中、Nは宗教的動機を示唆する供述をした」という。ただし、特定のイスラム教過激組織との繋がりは見当たらないという。

Nは2001年にカブールで生まれ、16年にアフガニスタンからイタリア経由で未成年者の一人旅としてドイツに来た。当時16歳のNは青少年福祉施設に保護された。その直後、Nは亡命を申請したが、17年9月に却下された。しかし、N.は後にミュンヘン市から居住許可と労働許可を受け取っている。24歳のNはボディービルダーとして成功し、チャンピオンシップタイトルも獲得した。フィットネスモデルとしても活動していた。週刊誌シュピーゲルによれば、Nは犯行前にイスラム主義的な内容をソーシャルネットワークに投稿していたという。捜査員はNのアパートを家宅捜索、PCや携帯電話などを押収した。

ドイツでは襲撃テロ事件が続いている。マンハイム(2024年5月31日)、ゾーリンゲン(24年8月23日)、マクデブルク(24年12月20日)、そしてアシャッフェンブルク(2025年1月22日)と過去9カ月間で4件が起きた。今回は抗議する労働組合メンバーのデモ参加者が犠牲となった。

なお、ミュンヘン安全保障会議(MSC)は14日から開催中だが、Nの犯行と会議開催との関連性については警察当局は否定している。会期は3日間で、100人以上の首脳や国際機関トップらが集う。トランプ米政権からバンス副大統領やルビオ国務長官らが参加するほか、ウクライナのゼレンスキー大統領も対面参加する予定だ。5,000人の警察官が外国からのVIPを守るために動員されている。

ドイツ高級誌「ツァイト」オンラインは「選挙戦ということもあって、各党の首相候補者、社会民主党のショルツ首相、『キリスト教民主同盟』(CDU)のメルツ党首、『緑の党』のハベック副首相、極右政党『ドイツのための選択肢』のヴァイデル党首、そして自由民主党党首のリントナー氏らが事件に対して遺憾と怒りを表明している。事件の全容がまだ明かでない段階でミュンヘンの襲撃事件を選挙キャンペーンのテーマにしている」と、少々辛らつに報じている。

選挙戦での争点は3点、①移民・難民対策、②AfD問題、③3年連続リセッション(景気後退)にある国民経済の再生問題だが、バイエルン州のアシャッフェンブルクで1月22日に起きた襲撃事件が契機となって、難民対策が再び選挙戦の中心的テーマとなった感じだ。

次期首相に最も近いCDU党首のメルツ氏は「法と秩序を一貫して執行する」と述べ、強硬な難民対策を打ち出す意向を明らかにしている。なお、ショルツ首相とフェイザー内相は「わが国で犯罪を犯したアフガニスタン人は強制送還される」と発表してる、といった具合いだ。

連邦議会の投票日まであと1週間余りとなった。各党は最後の追い込み中だ。「加害者は全ての難民を代表しているわけではない」、「事件を選挙運動に利用して移民に対して憎悪を煽るべきではない」といった声がソーシャルネットワークで流れている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。