神戸か広島に「北東アジア安全保障対話・協力機構」の本部を

ヨーロッパには、ロシアを含む多くの国が参加するOSCE(欧州安全保障協力機構/本部ウィーン)が存在するが、これにならい「北東アジア安全保障対話・協力機構」の設立を目指し、その常設事務局を日本国内に置こうという構想がある。

北東アジア安保機構を提唱 公明党、紛争防止へ新構想 - 日本経済新聞
公明党の斉藤鉄夫代表は9日の記者会見で、今年が戦後80年の節目となるのを機に「平和創出ビジョン」を発表した。紛争を未然に防ぐため、多国間の安全保障対話枠組み「北東アジア安保対話・協力機構」の創設を提唱し、核兵器禁止条約の署名・批准や、人工知能(AI)の軍事利用への規制を柱に据えた。ビジョンの意義について「北東アジアで緊...

提案しているのは公明党であるが、これはたいへん意義深い構想であり、元首相経験者の協力も得て、与野党を超えて積極的に取り組むべきだ。できることなら、その本部を神戸か広島に設置するのが望ましい。

これまで「ハト派」か「タカ派」かの政治的立場は主に安全保障政策への対応で判断されてきたが、昨今の参院選では、外国人労働者や観光客に対する姿勢が争点となっている。なかでも、外国人排斥的な「ジャパン・ファースト」を唱える参政党が、うっかりすると比例区で第一党になる勢いである。これについては別途論じるが、深刻な問題は、世界平和に関する議論がほとんどなされていないことである。

「日本には脅威は存在しない」「脅威があるとしてもそれを招いたのは日本自身だ」といった極端な立場や、逆に「憲法9条は誤りで、早急に破棄すべき」といった急進的な声もあるが、多くの国民は、米国からの大幅な軍拡要請を現実として認識しつつ、なお平和主義を捨てることには躊躇しているのが実情である。

そうした中、日本が中立的な立場をとりうるウクライナやガザの問題などは、まさに外交的出番となるべき領域である。安倍晋三元首相が生きていれば何らかの対応をしていたかもしれないが、石破茂首相(仮定)のもとでは、外交的経験や知見の不足が指摘され、期待されにくい状況にある。それでも、石破氏には努力をしてほしいと思う。

加えて、目先の外交だけでなく、長期的に世界平和の再構築を主導する可能性を日本が追求するべきである。

その文脈で注目されるのが、公明党が2025年5月、「戦後80年・国連創設80年」に合わせて発表した「平和創出ビジョン〜対立を超えた協調へ〜」である。これは、国際医療NGO「AMDA」でアンゴラ、アフガニスタン難民キャンプ、スリランカ、イラクなどで医療支援のプロジェクト・コーディネーターを務めた谷合正明参院議員が中心となって取りまとめた。

「平和創出ビジョン」を提言する公明党の斉藤鉄夫代表(2025年5月13日)
首相官邸HPより

この構想は、「人間の安全保障」と「法の支配」を基本理念に掲げ、力による現状変更を抑止し、多国間協調を通じて「命と尊厳を守る外交」を日本が主導する姿を描いている。その柱となるのが、OSCEをモデルにした「北東アジア安全保障対話・協力機構」の創設である。六者協議の参加国(日米中露・南北朝鮮)などを対象に、日本国内に常設事務局を設け、まずは災害対策・気候変動対応など非軍事的分野から協力を始め、次第に軍備管理、平和条約締結へと段階的に進める構想である。各国の反応も概ね好意的だという。

こうした構想が公明党から出された背景には、1999年の自民党との連立以降、「平和の党」としての看板が色あせたとの批判への応答もあるだろう。とはいえ、現在の国際情勢では、共産党・れいわ・社民などを除き、主要政党の間で対米同盟の重要性を認める点では大差がない。私自身は、バイデン政権下での米国のウクライナ・イスラエル支持がやや一方的だと感じているが、日本の世論はそれほど強い反発を示していないため、公明党が支持を失っている要因とはなっていない。

むしろ、中国・韓国に対する日本の世論は、政府以上に厳しい面があり、立憲民主党なども台湾・ウイグル問題で明確にアンチ北京の姿勢を取っているため、公明党が「親中すぎる」との印象で票を失っているわけでもない。

問題があるとすれば、核廃絶などのテーマにおいて、与党でありながら何も動かせないという無力感が、公明党内や支持母体の創価学会員に広がっていることだろう。

公明党が、核兵器禁止条約へのオブザーバー参加を自民党に強く働きかけるのは正しい方向性であり、短期的な日本外交とは切り離して、長期的目標として核廃絶のための道筋を模索するべきである。

その一環として「平和創出ビジョン」には、核兵器の先制使用や威嚇の禁止、自律型致死兵器(AI兵器)への規制、「人間中心AI」に関する国際ルールづくりなど、現代的課題への対応も盛り込まれている。

この構想を進めるにあたり、私は二つの提案をしたい。

第一に、常設事務局は東京以外に置くべきであり、具体的には神戸または広島がふさわしい。広島は「平和都市」としての国際的な象徴性がある一方、外交公館の不足や空港アクセスの弱さが難点である。対して神戸は、国際人材や外国人居住者が豊富で、関西圏の三空港も活用でき、大阪の総領事ネットワークを活かすことが可能である。京都や大阪は観光公害の懸念もあるうえ、神戸は近代以降の国際都市としての伝統があり、インバウンド推進の観点でも理にかなう。また、防災が協力の第一ステップであるならば、阪神・淡路大震災を経験した神戸は象徴性・実績の両面から極めて適している。

第二に、こうした構想には、総理経験者の協力を得るべきである。特に岸田文雄前首相は、外相を5年務め、語学力や国際感覚にも優れ、社交性もある。広島出身であることは、平和外交の象徴として強みとなる。コロナ禍で十分に外交力を発揮できなかったという悔いもあろう。彼には、ジミー・カーター元米大統領のように、元首相としての役割を世界の平和のために果たすことを期待したい。