ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、キーウでウクライナ・メディアに向けて米国の支援を受けて作成された20項目の和平案の概要を初めて発表した。それによると、北大西洋条約機構(NATO)相互援助条項第5条をモデルとしたウクライナへの安全保障の確約、平時の兵力を80万人にするなどが明記されている。未解決の問題の一つは、ロシアが要求している領土譲歩の問題であり、特にウクライナが依然として部分的に実効支配しているドネツク地域の扱い方だ。

クリスマスメッセージを発信するゼレンスキー大統領、2025年12月24日、ウクライナ大統領府公式サイトから
ゼレンスキー氏は同和平案を枠組み文書の草案と呼び、更なる説明と協議が必要だと述べている。そして「同和平案は現在、モスクワで検討中で、米国がロシアと話し合った後、ロシアからの回答を得る予定だ」という。
以下、ゼレンスキー氏が発表し、AFP通信とドイツ通信が報じた「20項目和平案」の概要だ。
①署名国はウクライナが主権国家であることを確認する。
②同文書はロシアとウクライナ間の完全かつ無条件の不可侵条約を構成する。長期的な平和を支えるため、宇宙ベースの無人監視システムを用いて国境線を管理する監視メカニズムが設立され、違反の早期警戒と紛争解決を図る。
③ウクライナは強力な安全保障の確約を受ける。
④ウクライナ軍の平時兵力は80万人とする。
⑤米国、NATO、および欧州の署名国は、NATO条約第5条の発動を反映した安全保障をウクライナに提供する。
a)ロシアがウクライナに侵攻した場合、軍事対応に加え、ロシアに対するあらゆる国際的な制裁が復活する。
b)ウクライナが挑発行為なくロシアに侵攻した場合、またはロシア領土を砲撃した場合、安全保障は無効とみなされる。ロシアがウクライナを砲撃した場合、安全保障は有効となる。
c)本協定は二国間の安全保障を排除しない。
⑥ロシアは、必要なすべての立法および批准文書において、欧州およびウクライナに対する不可侵政策を正式に定める。
⑦ウクライナは特定の期限内に欧州連合(EU)に加盟し、短期間で欧州市場への優先的なアクセスを得る。
⑧ウクライナのための強力なグローバル開発パッケージは、別途締結される投資協定において定義される。
a)テクノロジー、データセンター、人工知能(AI)など高成長分野への投資を目的としたウクライナ開発基金の設立。
b)米国と米国企業はウクライナと協力し、ウクライナのガスインフラの再建、開発、近代化、運営に共同投資する。
c)戦争で荒廃した地域の復興に向けて共同で取り組み、都市と住宅地の復興と近代化を目指す。
d)インフラ開発の優先化。
e)鉱物及び天然資源の採掘を拡大する。
f)世界銀行は、これらの取り組みを加速させるための特別融資パッケージを提供する。
g)戦略的復興計画の実施を組織化し、将来の繁栄の機会を最大化するため、世界有数の金融関係者を繁栄コミッショナーに任命するなど、ハイレベル作業部会を設置する。
⑨ウクライナ経済の復興、被災地・地域の復興、そして人道問題に対処するため、複数の基金を設立する。
a)米国及び欧州諸国は、目標規模2,000億ドルの資本及び無償基金を設立する。
b)ウクライナの戦後復興のため、幅広い資本投資及びその他の金融手段を活用する。
c)ウクライナは、外国直接投資を誘致するため、世界最高水準の基準を実施する。
d)ウクライナは、発生した損害に対する賠償を受ける権利を留保する。
⑩同合意文書の締結後、ウクライナは米国との自由貿易協定の締結を迅速に進める。
⑪ウクライナは、核兵器不拡散条約に基づき、非核兵器国であり続けることを表明する。
⑫ザポリージャ原子力発電所は、ウクライナ、米国、ロシアの3か国によって共同運営される。
⑬ウクライナとロシアは、異なる文化への理解と寛容を促進し、人種差別と偏見をなくすための教育プログラムを実施することを約束する。ウクライナは、宗教的寛容と少数言語の保護に関するEUの規則を実施する。
⑭ドネツク州、ルハンスク州、ザポリージャ州、ヘルソン州においては、和平文書の署名日における軍の陣地線が事実上の接触線として認められる。
a)全ての当事者は、現在の位置を接触線として確認する。
b)紛争終結に必要な部隊の移動を決定し、将来の特別経済区の設置の可能性について検討するため、作業部会が招集される。
c)本協定の遵守状況を監視するため、国際部隊が接触線沿いに駐留する。特別経済区の設置の決定には、ウクライナ議会の特別承認または国民投票が必要となる。
d)本協定の発効には、ロシア連邦がドニプロペトロフスク州、ムィコライウ州、スムィ州、ハルキフ州から軍を撤退させなければならない。
e)両当事者は、1949年のジュネーブ諸条約及びその追加議定書の規則、保証及び義務を尊重することを約束する。これらの規定、保証及び義務は、普遍的に認められた人権を含め、領土全域において全面的に適用される。
⑮将来の領土問題について合意した後、ロシア連邦及びウクライナ両国は、これらの合意を武力によって変更しないことを約束する。
⑯ロシアは、ウクライナがドニプロ川及び黒海を商業目的で利用することを妨げない。
⑰以下の未解決問題を解決するため、人道委員会を設置する。
a)2014年以降に判決を受けた者を含む、残存する全ての捕虜は、「一人対全員」の原則に基づいて交換される。
b)子ども及び政治犯を含む、拘留されている全ての民間人及び人質は、本国送還される。
c)紛争の犠牲者の抱える問題と苦しみに対処するための措置が講じられる。
⑱ウクライナは、本合意の署名後、可能な限り速やかに選挙を実施しなければならない。
⑲本合意は法的拘束力を有する。その実施状況は、トランプ米国大統領が議長を務める平和評議会によって監視・保証される。ウクライナ、欧州、NATO、ロシア、そして米国がこのメカニズムに参加する。違反には制裁が科される。
⑳すべての当事者が本合意を批准した時点で、完全な停戦が直ちに発効する。
米国は11月21日、ウクライナ側に28項目からなる和平案を提示したが、非常に親ロシア的な内容と受け取られ、ウクライナや欧州諸国から批判を受けた。そこで同和平案は重要な点で修正されてきた経緯がある。米国とウクライナの代表団は先週末、米国フロリダ州で修正案について交渉を行ったばかりだ。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、プーチン大統領がキリル・ドミトリエフ特使から訪米について報告を受けたと発表したが、20項目の和平案についてコメントを控えた。
いずれにしても、米国が支援し、ウクライナ側が合意した和平案が成果を挙げるか否かは、プーチン氏の出方次第だろう。もう少し厳密にいえば、トランプ米大統領がプーチン氏に和平に応じるように制裁を一層強化できるか否かだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






