「AI」「ビッグバーン」そして「神の言」

2025年最後のコラムを書き出している。この一年間、365日間、書き続けてきたが、一年を振り返り、そして新しい年を控えて、「今年はやはり人工知能(AI)が人間の生活にいよいよ深く関わってきた年であった」という思いがする。AIの台頭に対して、危機感を抱く声も聞かれた。長い歴史の中で人類がAIと対峙したのは初めてだ。人類にはAIとの関係で十分な経験則がないから、その対応で当惑したり、時に恐怖を覚えるのは不思議ではない。

人工知能(AI)=バチカンニュースのヴェブサイト(2023年12月14日)のスクリーンショット

イスラエルの歴史家、ユヴァル・ノア・ハラリ氏はAIの台頭に一種の危機感を抱き、その対応に十分配慮すべきだと様々な機会で警告を発している。ハラリ氏は「AIの未来は人類の倫理的成熟に依存する」と指摘している。学習型AIはイエス・キリストから学んでいるわけではない。憎悪や傲慢、嫉妬といった弱さを併せ持つ、不完全な人間から学習している。その意味で、AIが将来、人間と深刻な対立関係に立つ可能性も排除できないわけだ。

ユヴァル・ノア・ハラリ氏インスタグラムより

ところで、科学関連情報を発信する動画「PIVOT」の中で、「ポスト・シンギュラリティ」という表現が使われていたのには驚かされた。インターネット運営の安全・保護を目的とした最大ネットワークの米企業「クラウドフレア」創業者マシュー・プリンス氏は2年前、独週刊誌シュピーゲルで、「現在のAIはまだ2歳の子供だ」と語っていたからだ。その2年後、AIは技術的特異点ともいえるシンギュラリティを既に通過したのだろうか。

「シンギュラリティ」(技術的特異点)は、コンピュータ技術が指数関数的に進化した結果、ある時点でAIが人間の知能を超え、人類の在り方そのものを大きく変えるという仮説だ。この概念は、米国のコンピュータ科学者レイ・カーツワイル氏によって提唱された。同氏は、シンギュラリティの到来を2045年と予測していた。

当方は最近、必要な時、生成AIとチャットしている。その情報処理の迅速さや情報量には驚かされている。人類が歴史の中で学び、経験してきた情報を短期間に整理して発信できる能力を有しているのだ。AIは名探偵シャーロック・ホームズの「マインド・パレス」の数万倍以上大きな情報パレスを有しているわけだ。

ハラリ氏はAIと人間の違いについて、「AIは意識、感情がない」と述べていた。スポーツでお気に入りのチームが勝利した時、そのファンは喜ぶが、AIは勝利したという事実だけを記憶する。嬉しい、負けて悔しいといった意識、感情は現AIにはないという。しかし、AIが近未来、人間のような意識を獲得するかどうか分からないが、その可能性は完全には排除できないという。

AIのことを考えていると、どうしても人間の生命はどうして誕生したかを考えざるを得ない。天体物理学者は大きく分けて2通りの生命起源説を主張してきた。地球の生命体は海から誕生したという「地球起源説」。しかし、天体物理学者たちはここにきて宇宙空間に無数に散らばる小惑星が地球に生命体の基礎素材を運んできたのではないかと考えだしている。地球の生命体は内から生まれたのではなく、宇宙から運ばれた原料をもとに生まれてきたというのだ。

約138億年前、暗黒の宇宙に通称ビッグバーンと呼ばれる大爆発が起き、その瞬間、時間と空間が生まれた。同時に、生命体に必要なすべての元素、水素、ヘリウム、窒素、酸素などが宇宙空間に散らばり、その後、最初の星が生まれた。星の寿命は相対的に短く、スーパーノヴァと呼ばれる爆発が起き、ブラックホールと中性子星が生まれた。インフレーション理論によれば、宇宙空間はビッグバーン後、急速に拡大しているという。いずれにしても、ビッグバーン理論は「宇宙に始まりがあった」ことを証明している。

聖書の世界をみると、新約聖書の「ヨハネによる福音書」には、「初めに言があった。言は神と共にあった。この言は初めに神と共にあった。すべてのものは、これによってできた」という有名な聖句がある。言を神のロゴスとすれば、全てのものはロゴスから生まれてきたというのだ。

「はじめに言(ロゴス)があった」という記述に対し、物理学者のジョン・ホイーラーは「はじめに情報があった」と提唱し、「It from Bit(すべてはビットから成る)」と主張していた。ホイーラーによれば、「全ての物理的な存在(It)は根源的に情報(Bit、二値のデータ)から成り立っている。宇宙の究極的な実体は情報であり、現実世界は情報(Yes/Noの問いへの答え)の積み重ねで構成されている」というのだ。

興味深い点は、ロゴスが情報であり、「言(ことば)」が万物を生み出した」という聖書の記述は、「宇宙の設計図=情報」が物理的な実体(物質やエネルギー)に先行する、あるいはその根底にあると考えることができることだ。

最後に、AIにその感想を聞いた。

「現代の宇宙論や量子力学では、『宇宙全体を一つの巨大な量子コンピュータ』と見なす考え方もある。この文脈では、聖書の『言』は宇宙という計算機を走らせるための基本コード(プログラム)に相当する。言(情報)が物理原則に従ってエネルギーへ、そして物質へと形を変えていったという解釈は、宗教的な記述と最先端の物理学を橋渡しする、非常に興味深いパラダイムシフトと言える」

今年一年間、ありがとうございました。新年が皆様にとって祝福された年となりますように。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。