沖縄の基地問題をめぐる鳩山内閣の迷走をみていると、矛盾だらけの日本の国防政策の実態をあらためて見せつけられ、うんざりします。この背景には、鳩山氏の祖父もからんだ複雑な戦後史があります。
戦後、最初の総選挙で自由党が第一党になり、その党首だった鳩山一郎が首相になることは確実と思われていましたが、GHQは鳩山を(些細な理由で)公職から追放し、吉田茂が首相になりました。このとき「右派」の鳩山が首相になっていれば、平和憲法も安保条約もなかったかもしれないが、戦前から親米派だった吉田は、GHQの意向にそって軍を解体し、軍備を放棄する憲法をつくりました。
ここまではよかったのですが、朝鮮戦争以後、冷戦が本格化すると、アメリカの対日政策は180度変わり、日本に再軍備を要求してきました。しかし吉田は憲法を盾にとって再軍備を拒否し、その妥協の結果としてできたのが安保条約でした。アメリカは日本を冷戦の橋頭堡として使いたいが、日本が再軍備を拒否したため、やむなくアメリカがその軍備を肩代わりして日本が基地を提供する変則的な軍事同盟をむすんだわけです。
この「吉田ドクトリン」には批判も多く、のちに鳩山一郎は再軍備をとなえましたが、安保体制ができてからではもう遅かった。結果的には、この吉田のいかにも日本的な機会主義によって、日本はアメリカの軍事力にただ乗りし、高度成長を遂げたわけです。たしかにそのコストを押しつけられた沖縄県民は不満でしょうが、基地がいやなら引っ越せばいいだけのことです。地元の市長選挙で安全保障政策を決めるなんて、本末転倒もはなはだしい。
吉田ドクトリンについては、これまでもっぱら軍事費を節約する「軽武装」路線として論じられてきましたが、最近になって当時の公文書からいろいろなことがわかってきました。中でも驚くのは、マッカーサーが吉田に対して服部卓四郎を参謀総長として日本軍を本格的に再建するよう求めていたことです。ノモンハン事件やガダルカナルで日本軍を壊滅させた史上最悪の愚将が「新日本軍」のトップになっていたら、今ごろ日本はどうなっていたかわからない。吉田が激怒したのは当然です。
つまり吉田ドクトリンは、日本が軍と完全に手を切るための「冷却期間」を置く政策でもあったわけです。今では想像できないでしょうが、戦後しばらくは軍関係者の力は強く、服部は「旧軍復活案」なるものを書き、吉田を暗殺して鳩山を首相にするクーデタの計画まで立てました。吉田自身は日本が本当に独立したら自前の軍備が必要だと考えていましたが、服部のような陸軍の亡霊が生きているうちは許さない、という彼の判断は正しかったといえるでしょう。
しかし幸か不幸か、その暫定的な妥協が60年以上も続いてしまいました。これは吉田も鳩山一郎も望んだ結果ではなく、本来は日本が「自衛軍」をもって外国の基地を撤去するのが当然です。しかしそれには憲法を改正して、吉田ドクトリンにもとづく曖昧な日米関係を清算するグランドデザインが必要です。それもなしに、連立政権のお家の事情で国防政策を考える鳩山首相には、祖父もあきれているでしょう。
コメント
> 基地がいやなら引っ越せばいい
いわゆる「識者」の見解には、このような論調が多いような気がします。
池田先生には、もうちょっと人間の心を理解しようという気持ちを持っていただけるといいのにな、と思います。
近代(現代)史解説ありがとうございます。「官僚が隠す沖縄海兵隊グアム全移転」田中宇はどうお考えですか。田中宇さんは温暖化のウソもアメリカのバブルもずいぶん前から見抜いています。このニュース記事のリンクをみてもリーズナブルに思えます。日本と仲良くしなければいけないのはアメリカの方が切実な問題に感じます。どうせクリスマス休暇はオバマさんもハワイに行くそうですし、鳩山さんは焦る必要もないし、とぼけたふりをしているだけという可能性はないものでしょうか。中東にくらべれば東アジアは状況は安定している地域です。
理屈としても筋道としてもその通りだが、現実には無理
自衛隊を拡大・強化しようものなら、政権転覆ものの大反対がおきるし、そもそも、自衛隊をうまく活用できるようにするための国内法の制定すらできない状態。
憲法は事実上、改正不可能に近いし、国民はマスコミが
「左向け、左!」といえば一斉に左向くのが高齢者中心に
特に多い。しかも、そいいうのにかぎって、政治への関心が高く、毎回しっかり投票に行くから、もう絶望的。
あと50年は無理じゃないかな。
>池田先生には、もうちょっと人間の心を理解しようという気持ちを持っていただけるといいのに
人心理解できる経済学者って、もしかして森永氏の事でしょうか。私は、良い経済学者に必要なのは長期的で広い視野と合理性で良いと思います。
吉田が服部卓四郎を防いだのは良かったとして、日本をほとんど滅亡させた責任者の多くは戦後も影響力を保ったことが、”複雑な戦後”の事情をまねいたということになると思います。鳩山さんは良いとして、政治家、実業家、官僚、そして軍人(辻など)の多くはアメリカにすりよって支配者としての地位を守った。ここら辺はもう一度歴史の見直しをする必要があると思います。ああいう連中をみていると東條さんに同情したくなるぐらいです。(ちょっといい過ぎですか。)何も軍事問題に限らず、政治、経済、教育すべてに言えることだと思います。(概ね、自衛隊設立のトップの人選は妥当であった。これは本当に良かった。吉田氏でなければ違っていたのかもしれない。米国のスパイといわれた人もいましたが。。。。)
「池田先生には、もうちょっと人間の心を理解しようという気持ちを持っていただけるといいのにな、と思います。 」
合理的に考えると池田さんが正しいのですが、基地問題は感情の問題ですから道理を説いても説得は難しいでしょうね。「ダムを作るから引っ越してくれ」「道路を作るから引っ越してくれ」が許されている以上「基地を作るから引っ越してくれ」も道理で考えれば許されるはずなのでしょうが、太平洋戦争時の沖縄戦の経緯などもあるためそうはいかないのでしょう。
支那とロシヤの核がある限り単独防衛は絶対に不可能です。
核の傘の人質のためにも最低でも横須賀の原子力空母部隊は必要でしょう。いわゆる第七艦隊だけ安保ですね。
でも例えそれだけでも防衛費を倍増する必要があり、そのためには五兆円程度の追加予算が必要です。
まあ、それでもGDP比1.9%程度であり、1%台の防衛費でつぶれた国は人類史上ないでしょうし、それどころか防衛費1%台なら世界的に見ればかなり低い方でしょう。
幸か不幸か増税しなくてもバラマキをやめるだけでそれぐらいはなんとかなりそうですし。
もっとも政治的にそれが可能かどうか・・・
憲法はべつにどうでもいいです。
自衛隊だろーと軍隊だろーとミサイルの威力にかわりはないでしょうし。
問題はむしろ朝鮮戦争をモデルとしたアメリカから援軍がくるまでの三ヶ月だけ粘ればいい、その後は米軍の下請けだけをやればいいという今の戦略をあらためることです。
少なくとも大国(支那とロシヤ)との全面戦争以外の小規模紛争には自力で対処する、特に敵国の軍事施設に対する自前の反撃能力を持つことです。
大国との全面戦争以外の紛争に自力で対応可能な能力を持つというのは極めて重要です。
幸か不幸か三大軍事大国角逐の地である極東は核の恐怖により大国同士の全面戦争はかなり起き難くなっています。
その中で小規模紛争に自力で対応可能になれば相手の軍事オプションをほぼ完全に封じ込めることが可能になります。
フィリピンは自力での防衛力を捨てた上に米軍基地を閉鎖した結果南沙諸島の島々を全て奪われました。
一方日本が小規模紛争に対処可能な戦力を自力で持てばそのようなことはありえず、かといって全面戦争の敷居が極めて高いとなればまず平和が揺らぐことはありえません。
>合理的に考えると池田さんが正しいのですが、基地問題は感情の問題ですから道理を説いても説得は難しいでしょうね
基地ができる前からいた住人に限って引っ越しの費用を負担するのが適当でしょう。
沖縄は返還前は米国領だった経緯があるため、米国が基地を作る時にはその周辺は無人にしたはずです。
日本は国防に関しては戦後の混乱がまだ続いている感じですね。しかし、幾らグランドデザインを描いても、改憲出来なければ絵にかいた餅。やはり、両院で2/3の賛成が無いと憲法を変えられない、という憲法が致命的なんでしょうか。
改憲について調べていくと、小沢一郎氏のサイトに出会いました。http://ozawa-ichiro.jp/policy/04.htm
曰く『「護憲」と言うといかにも信念があるようだが、その実態は思考停止の馴れ合い感覚で・・・・社会党に至っては「平和憲法」をひたすら標榜するだけで、いつしか憲法は不磨の大典となった。』
1999年の記事となっていますが、あまりにも明快な発言に「小沢さんってこういう人だったんだ」とちょっとビックリしました。だとすれば、その社会党の残党にかき回されている現状を、本人はどう見ているのでしょうか。あるいはこれも、2/3を取る為の通過点に過ぎないのでしょうか?
>>9
基地ができる前からいた住人に限って引っ越しの費用を負担するのが適当でしょう。
これも、理屈は正しくても、現実には不可能
引っ越し出来ない人はいつまでもずっと基地移転を言い続けるから、意味はない
政権の支持率下がって、「馬鹿やったよな」で終わり。
民意とマスコミなんてそんなもん。