政府は9月27日に初会合の「働き方改革実現会議」を皮切りに、介護や育児、建設など人手不足の分野で外国人労働者を受け入れるための法整備をめざすという。
現在は、「高度専門人材」と「技能実習制度」と言う形で、平成5年から外国人労働者を受け入れている。そして、この殆どの受け入れは、技能実習制度で受け入れた外国人労働者である。
この制度の問題については、幾度となく地味に報道されているのだが、あまり周知されていない。この実習制度の実態は、世界に対し日本の信用を完全に失墜させるような最悪の運用実態となっているのだ。
現在の日本の法律では、外国人は単純労働に従事することができない。政府は労働者不足の対策として、単純労働者を「実習」という名目で受け入れ、法律に抵触しない仕組みを導入したのである。その実態は、特に地方の若手人材が不足している業種である、機械、農業、漁業、畜肉、惣菜加工、他工場などの単純労働に従事させているのだ。そして、もちろんだが、後に使える技術や知識の習得などの研修は殆ど行われていない。
この制度の導入開始直後から、法定賃金違反、賃金未払い、残業代不払い、長時間労働などの問題で外国人労働者による労働争議や団体訴訟が全国各地で頻発している。しかし、平成22年の入管法改正施行以後、実習生の数は急拡大しているのだが、現在に至るまで、この問題は何ら改善されるどころか被害は拡大の一途を辿っているのだ。
昨年(平成27年度)は、厚労省の資料によると、192,655人の外国人実習生を受け入れている。
そして、その受け入れ事業者の中で、労働基準法違反と指摘されたのは、監督指導検査を受けた事業場の71%、3,695事業場に上る。しかし、この数字は、監督指導検査を実施した事業場の範囲にとどまり、実際の実数は、この数字よりはるかに多い違反が存在することは明白だ。
この異常な労働環境の職場に、我が国政府と完全なるブラック会社連合軍が、途上国の外国人労働者をせっせと放り込んでいるという図式となってしまっているのである。これが事実であるならば、どこかの国の強制労働収容所を想起してしまう恐るべき事実である。
今回、安倍総理肝いりであるこの検討会議に入る前の、今年4月に自民党は「単純労働者」の受け入れを「必要に応じて認める」労働提言案を政府に示し、政府と自民は、国民の抵抗感が強い「移民政策」には踏み込まない内容に落とし込むことで、単純労働者の受け入れの意思を固めているという。
この外国人単純労働者の受け入れに関しては、各所で多くの議論を生み、懸念すべき問題も多々あるわけだが、その前に、前述した日本の出来事とは思えない、この問題についての解決が何よりプライオリティの高い課題ではないだろうか?
仮に、この問題を未解決のまま、新たに大量の外国人を受け入れたとしたならば、どんな事態が起こるのかは想定するに難くない。欧州の移民問題など比でないレベルであらゆるカタチの争議が全国各地、特に地方地域で多発することが予想される。
それは、日本の地方に住む人々の、特に欧米圏以外の外国人に対する意識は、外国人慣れしていないこともあり、東京などの大都市圏に住む人々が持つ意識とは大きく異なる。また、労働環境などの意識についても、古き良き日本的な慣習を継続するなど、積極的な変化を求めない意識が強い。前時代的経営者に見られたような発言や行動も、何ら憚ることはない。これは若手経営者においても同じである。これらは、地方では多くが労使ともに地元住民であることから、労働争議に発展しにくい環境が認識の甘さに繋がっているのであろう。
もしかすると、前述してきた外国人労働者に対する労基法違反の多くの事例も、悪意などは少なく、一般的な対応と考えていたかもしれない。勿論、これらは完全な労基法違反であり、場合によっては人権問題にも発展する事柄であり決して、許されることではない。
この問題は、本件導入の入り口の議論で最も懸念されてきた、外国人犯罪多発による治安の悪化への大きな不安につながっていく。今、仮に地方に大量の外国人労働者が流入した場合、「地方事業者の悪気のない認識の甘さ」が、想定をはるかに超える悪展開へと発展する可能性も充分考えられるのだ。
そして今、在留外国人犯罪の国別比率をみれば、外国人技能実習生の国別受け入れ比率とほぼ比例した犯罪が発生しているという事実が既に起きているのである。
外国人単純労働者の受け入れの是非はともかく、今すぐ本件において必要なことは、全国の個人中小企業を含む事業者に対する労基法の正確なルール及び罰則等運用基準の周知徹底と、それを遵守させる行政の管理体制の構築が急務であるのではないだろうか。
地方の経営者の認識が甘かった、そんなことで日本が暴動頻発国家になったら目も当てられない。
本元 勝
グローバルセールスエージェント
東京商業支援機構
※アイキャッチ画像はビザ申請代行より引用(アゴラ編集部)