3階席で発見した、バレエ『白鳥の湖』のもう一つの美しさ

出口里佐です。

兵庫県立芸術文化センターで、東京バレエ団の『白鳥の湖』を観ました。オデット/オディールは永久メイさん、ジークフリート王子は柄本弾さん。ウラジーミル・ブルメイステル版です。

東京バレエ団HPより

実は一週間ほど前にも、新国立劇場で同じ東京バレエ団の『白鳥の湖』を観ています。その時も3階席でした。

バレエを見るなら、できれば1階の前方でダンサーの表情や細かな動きを見たいもの。最初は「3階席か」と少し残念に思っていました。

この日の座席からの眺め。3階の最前列で、S席。

3階の正面席から右手をみたところ。
このホールは前の方の頭が邪魔にならないような設計なんですね。

ところが、そこで思いがけない発見がありました。

上から見ると、舞台に「湖」が現れる

3階席からは、舞台の床面がよく見えます。

照明が落ち、白鳥たちが現れると、光を受けた床がまるで本当の湖の水面のように見えました。1階席ではなかなか見ることのできない光景です。

そして何より美しかったのが、東京バレエ団のコール・ド・バレエです。

白鳥たちが一列になり、斜めに並び、円を描き、次々と隊形を変えていく。その幾何学的な美しさが、上から見ると驚くほど鮮明に分かります。

一人ひとりの踊りを見るというより、白鳥の群れ全体が一つの生命体のように動いていくのです。

新国立劇場でこの面白さに気づいたので、西宮の3階席では最初から舞台全体を見ることを楽しみにしていました。そして今回も期待通りでした。

兵庫県立芸術文化センター入り口。
バレエの他、海外オーケストラの公演なども上演されるので、何度か新幹線に乗って来ています。

「良くない席」と思っていた3階席が、『白鳥の湖』ではむしろ特等席になったのです。

永久メイの白鳥と「氷の微笑」の黒鳥

もちろん、永久メイさんの踊りはオペラグラスも使いながら、しっかりと追いました。

湖畔のオデットから、第3幕のオディールへの変貌が鮮やかです。

特に印象に残ったのは、オディールの表情でした。美しく微笑みながらも、その表情はどこか冷たい。まさに「氷の微笑」です。

オデットになりすまして王子を誘惑するというより、「私はあなたを騙しに来た悪者です」と言わんばかりの強い存在感。儚げなオデットとの対照がくっきりしていました。

気がつけばロットバルトの手下だらけ

ブルメイステル版の面白さを改めて感じたのが、第3幕です。

各国のキャラクターダンスを踊る人々が、単なる宮廷の余興として登場するのではありません。実は彼らもロットバルトの息のかかった者たち。華やかな衣装で踊りながら、オディールとともに王子を罠へと追い込んでいきます。

舞台は華やかになればなるほど、実はロットバルト側に支配されていくのです。

そしてオディールがフェッテを披露するクライマックスでは、ロットバルトの手下たちも総出で盛り上げます。闘牛士たちが振る4枚の赤い布がひらひらと舞い、その中央でオディールが回転を重ねます。

美しい姫を迎えた華やかな舞踏会のはずが、気がつけば周囲はロットバルトの手下だらけ。王子はすっかり包囲されていたのです。

華麗な舞踏会でありながら、悪者たちの策略が成功する直前の熱狂でもある。この二重構造が実に面白い。

3階席から眺めると、中央のオディールだけでなく、周囲の人物や赤い布まで含めた舞台全体の構図がよく分かりました。

日本のバレエ団をもっと観たい

海外のバレエ団やダンサーを見るために、私はしばしばヨーロッパまで出かけます。

けれど今回、東京バレエ団の『白鳥の湖』を短期間に2回観て、改めて日本のバレエ団の水準の高さを感じました。

特に『白鳥の湖』では、主役だけでは作品は成立しません。何十人もの白鳥が呼吸を合わせ、線をそろえ、舞台全体に一つの世界を作り上げる。そのコール・ド・バレエの力があってこそ、湖畔の場面がこれほど美しくなるのでしょう。

同じ作品を二度観るのは贅沢かもしれません。

けれど、一度目には気づかなかった演出が二度目には見えてくる。座る場所が変われば、同じ舞台がまったく違う姿を見せてくれることもあります。

3階席から見下ろした舞台には、光でできた湖があり、その湖の上を白鳥たちが美しい幾何学模様を描きながら舞っていました。

『白鳥の湖』を2回観ることができて、本当によかったと思います。

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