もう一つの米国大統領選─「沖縄」や「アフガン」の人を喜ばせ、平和ボケ日本に警告した第三極候補の討論を聞いて!

北村 隆司

米国の大統領選も数日を残すだけとなったが、混乱した世界を前に次期大統領の責任は特別重い。

それにも拘らず、2001年のブッシュ政権誕生以来、党派性が極端に強まった米国では、政治が物を決められなくなったのは日本と同じで、昨年8月の世論調査では、58%の国民が民主・共和両党に飽き足らず、第三極の台頭を期待する結果が出ている。


コロンビア大学の故Hofstadter教授は「第三極勢力は、相手を刺して死んで仕舞うミツバチにそっくりだ。と言うのは、二大政党制が機能しなくなると、国民の期待は第三極に集まり出す。すると、危機感を感じた二大政党が態度を改め、結局、第三極は死んで仕舞うからだ。」と喝破して話題になったことがあると言う。維新にとっては気になる言葉だ。

三大テレビ局を始め殆どの局が中継する大統領選のTV討論には、世論調査で15%以上の支持がないと参加出来ないルールがあり、1992年のロス・ペロー氏を最後に、第三極からの候補は誰も招かれていない。

第三極候補と言っても、泡沫と片つける訳には行かない。

1992年選挙で、現職のブッシュ(父)候補がクリントン候補に敗れ、2000年の大統領選で、ゴア元副大統領が子供ブッシュに敗れたのも、第三極候補に邪魔された結果である。この二つの選挙結果が異なっておれば、その後の世界が変わっていたと思うと第三極候補も馬鹿に出来ない。

その様な背景もあり、世論調査の15%支持条件に反発したNGOが、有力ケーブルチャネルに働きかけて実施したのが第三極候補のTV討論である。

今年の第3極候補には大統領選の結果を左右する様な勢いは無いが、討論内容は聞かせるものが有った。

厚顔無恥と言う点では、日米拮抗しているオバマ・ロムニー論争をTVで見れば解る通り、両候補の勉強振りはすさまじく、日本の政治家の論戦とはレベルが違う。

とは言っても、そのレベルはエンターテーナーとしてのレベルで、既得権益者の書いたセリフを、臨機応変のアドリブを交えて、自分の意見のように熱演出来る名優と言う意味にすぎないが。

第三極のTV討論は、緊張感や進行の巧みさでは二大政党の討論には遠く及ばないが、各候補が相手の攻撃より自説の説明に時間を掛けたのが印象に残った。

討論のフォーマットは拍手も禁止されない可也自由なものだったが、聴衆も候補も極めて紳士的な対応で、既得権益者にあやつられ、タブーの多いオバマ・ロムニー討論に比べ、いかにも清新な、民主主義のあるべき姿をそこに見た気がする。

日本でも維新の人気が急落したと言われるが、維新に加入した議員の姿に、国民が薄汚れた既得権の陰を見たからでは?と思わざるを得ない。

登壇した第三極を代表する4候補は、その思想、信条に於いて、オバマ大統領の左に属する候補が二人、ロムニー候補の右に属する候補が二人で、これだけ主張の異なる候補の間で、討論が成り立つのか? と心配したが、重要政策で一致している事が多いのに驚いた。

進歩派のグリーン・パーテイーからは、日本でも知られるラルフ・ネーダー氏を破り選出された、ハーヴァード大学医学部出身のジル・スタイン医師。

同じく進歩派のジャステイス・パーテイーからは、ロムニー候補と同じモルモン教徒に改宗した元ソールト・レーク・シテイー市長のロッキー・アンダーソン候補。

保守派からは、超保守政党の立憲党から、ヴァージニア州選出下院議員を6期12年務めたヴァージル・グード候補とリバタリアン・パーテイーから選出された、元ニュー・メキシコ州知事で、今年の共和党大統領選出予備選に加わっていたゲリー・ジョンソン候補の4人であった。

全く立場の異なる4候補だが、国防費の大幅削減とイラン爆撃反対、イラク、アフガン撤退で一致していた。

中でも、保守派の元ニューメキシコ州知事のジョンソン候補は、財政健全化を最優先する立場から、国防費の43%を直ちにカットしても2004年レベルの国防費と同水準になるだけで、そもそも国防費の無駄が多すぎると強調し、日本、韓国、ドイツに駐留している米軍の総引き揚げと、海外基地の全廃に加え、米国の政治家にとっては自殺行為に近いイスラエル軍事援助反対を堂々と主張して、二大政党候補との違いを鮮明にしていた。

この主張は、沖縄やアフガンの人々を喜ばせると同時に、北方領土, 尖閣諸島、竹島問題など、南北東の3方に問題を抱える日本の国防政策の組み換えを余儀なくするもので、平和ボケへの警告でもある。

無人爆撃機(ドローン)使用や、ネオコンの要求で9/11狂騒の中で議会を通過した悪評の高いテロ対策法「Patriot Act 」や、それを更に強化したNDA ( National Defense Authorization Act.)も民主主義の破壊につながるとして,保革一致して反対している事は、日本では殆ど知られていないのでは? と思う。

民主、共和二大政党の討論が既得権者の「ロビー菌」に犯された不潔な印象を与えるのに対し、弱小政党の主張は「健常者」の持つ清涼感があった。

もう一つ興味深かったのは、超保守派のグード候補を除き他の三人が,揃って大麻合法化論者だったことだ。

論議が左右に分かれて沸騰したのは、言わずと知れた16兆ドルを超える巨額な債務問題と、奨学金のあり方を含む教育問題、貧困救済などを巡った再分配か自立促進かの論議であった。

これ等の主張が現実性を持たないとしても、米国の多様性を物語る貴重な討論であった。この討論の詳細にご興味のある方は、添付した動画を覗いて頂きたい。

2012年11月1日
北村隆司