
- この1年で広まった「ムスリムの脅威」は、ほぼデマ。NHKの分析では、1万回以上見られた投稿200件の約7割に誤情報や根拠のない情報が含まれ、表示は合わせて8300万回超。主な発信源はX上の約30アカウント。自書本の宣伝やインプレッションの金稼ぎ
- 「ムスリム=中東・アラブ・アフリカ」も勘違い。世界のムスリムの59%、約12億人はアジア太平洋に住んでいる。日本の在留インドネシア人26.6万人に対し、アラブ連盟22カ国の出身者は合計約8,700人、アフリカ全体でも約2.8万人。
- 日本にいるムスリムの多くは、日本が自分で呼んだ働き手。インドネシア人は技能実習の27%、特定技能の22%を占める。
- だから、ムスリムを敵に回すのはアジアを敵に回すのと同じ。人手も観光客も、原油の9割超を頼る中東も、相手はムスリムの多い国々です。
- 提案は4つ。宗教の教養教育、コーランの正しい理解、憲法20条の信教の自由の再確認、誤解を正す啓蒙。
- 正直な但し書き:土葬墓地の不足やモスク周辺の混雑など、現実の摩擦はある。そこはデマと切り分けて、制度で解く話です。
こんにちは。永江です。
ここ1年ほどで、「ムスリムはテロリスト」「イスラムに日本が乗っ取られる」と叫ぶ人が、タイムラインに急に増えました。日本人にもムスリムは5万人いて日本にいるアフリカ人の2倍なんですけど・・・
体感だけじゃない。あるモスクには去年から1日5〜10件、「国に帰れ」「日本にモスクはいらない」という電話やメールが届いているそうです。2026年6月には日本イマーム協議会が、ムスリムへの否定的な言説が増えていることに深い懸念を示す声明まで出しました。
で、叫んでいる人に聞いてみたい。世界で一番ムスリムが多いのはどこか知ってますか? 中東じゃない。アジアです。そして日本にいるムスリムの最大集団はインドネシア人。アラブ人でもアフリカ人でもない。
今日は、拡散したデマ、イスラムへの誤解、「どこから来ているのか」、そして「ムスリムを敵に回すと何が起きるか」を、全部数字でひっくり返します。
この1年のデマには、毎回同じ型があります。本物の火種がある → 文脈が落とされ内容が改竄される → 「ムスリムの仕業」に置き換わる。これだけ。
| デマ | 実際 | 拡散・影響 |
|---|---|---|
| 寺や豚舎の火事はムスリムの放火 | 消防庁によれば、2019年以降の養豚場火災101件に「放火」「放火の疑い」は0件。拡散された「リスト」の火災も、原因は暖房器具4件・換気扇1件・制御盤1件・作業中の失火1件・不明7件。寺社の火災ももともと年40〜60件ある | NHKの分析(2026年6月27日)で、1万回以上見られた投稿200件の約7割に誤情報や根拠のない情報、表示は合わせて8300万回超 |
| イスラム教徒が「邪教だから」と大阪の神社に放火 | 2025年6月6日のボヤ。宮司によれば小学生がマッチで落ち葉に火をつけたもの。警察も「邪教だから」という供述はないと否定 | 大阪府神社庁の注意喚起文書が発端。産経新聞が6月16日に訂正した後も拡散が続いた |
| 北九州市がハラル給食を決定 | 市教委が2025年9月24日に文書で「決定した事実はありません」と否定。誤解された「にこにこ給食」は、豚肉を含むアレルギー28品目を除いた献立 | 市教委に数日で1,000件超の抗議 |
| 藤沢のモスクが土葬墓地をつくる | 法人の登記簿に「土葬墓地の建設」という記載はない。市の条例でも、予定地に土葬墓地はつくれない | 反対署名は3万人超。反対を掲げた候補が2026年2月の衆院選に立候補 |
| 江別にパキスタン人の「立ち入り禁止区域」 | 地域の違法建築問題を、インド拠点のアカウントが「224人のパキスタン人が立ち入り禁止区域をつくった」と作り替えた(インドはパキスタンと戦争してます) | 29.4万回再生。英国の極右活動家も再投稿。その後、当のモスクが日本人による放火で全焼 |
| 日本が「反イスラム法」を制定 | そんな法律は存在しない。ドイツのアカウントが2026年5月10日に投稿 | 75.4万回超の閲覧 |
| 「JICAアフリカ・ホームタウン」でアフリカから移民が来る | 4市とアフリカ4カ国の留学生などの交流事業。外務省も2025年8月25日の報道発表で、移民の受け入れ促進や特別な査証の発給は「想定されておらず」と否定 | 4市に1カ月で約3.6万件の問い合わせや苦情。JICAは2025年9月25日に撤回 |
NHKによると、主な発信源は約30のアカウントで、ふだんから外国人に否定的な投稿を繰り返しているものが中心。フォロワーの多いヘイトインフルエンサー、現職の政治家、注目の話題をまとめて収益化を狙うアカウントも拡散していました。まとめアカウントの関係者は「投稿にはAIを活用している」と答えています。つまり、デマは怒りと不安で稼ぐビジネスなんです。
大阪の件は特にわかりやすい。宮司が防犯カメラに映った子どもの服装を見て「ムスリムによる放火」と神社庁に伝え、それが「邪教だから火をつけた」に化けた。子どもの火遊びが、思い込みと伝言ゲームで「宗教テロ」になったわけです。
そして江別。放火した37歳の男は公判で、ネットの動画を見てパキスタン人コミュニティーに反感を抱いたと述べ、「変な動画を見過ぎた」とまで言った。2026年10月29日に拘禁刑6年6月。デマは画面の中だけでは終わらない。その決定的な証拠です。
デマが信じられてしまう土台には、「イスラムってこういうもんでしょ」という思い込みがあります。代表的な4つを、事実と並べます。
世界のテロによる死者は2025年で5,582人。その約7割がパキスタン、ブルキナファソ、ナイジェリア、ニジェール、コンゴ民主共和国の5カ国に集中しています。内戦だから殺されているのは、主にその国に住む人たちです。他国は攻撃してないw
一方、日本で2026年に起きて判決まで出たのは、ムスリムが礼拝に使うモスクが標的になった江別の事件。日本で実際に燃やされたのは、ムスリムのモスクのほうです。
藤沢市は、適切に指導すれば公衆衛生上の問題は生じないという見解です。全国9カ所の土葬墓地でも問題は確認されていません。
そもそも日本も昔は土葬が普通で、1950年代まで火葬率は約50%でした。いまでも離島は土葬だし、土葬OKの墓地もあります。昭和天皇も土葬です。「土葬は日本の文化に反する」って、ちょっと前の日本人に言ってみてくださいww
実際の要望は、豚肉などを除くか、代わりの献立を用意してほしいというもの。埼玉県教育長は2025年9月の県議会で、ハラル食を一律に提供している公立学校はないと答弁しています。一部の県立学校では、豚肉を大豆ミートに替える対応をしている。これ、アレルギー対応と同じ考え方ですよね。
日本のムスリムの最大集団であるインドネシアの合計特殊出生率は2.12(2024年、世界銀行)。人口が維持される水準(約2.1)とほぼ同じで、1960年の5.51から大きく下がっています。
日本のムスリムが2019年の23万人から2024年末の約42万人に増えたのは、出生のせいじゃない。技能実習などで日本が働き手を受け入れたからです。
ほとんど来ていません。日本に住む外国人412万人のうち、アフリカ出身は約0.7%、アラブ諸国出身は約0.2%です。日本語できないのに労働ビザは下りません。

念のため。これは国籍の数で、信仰の数ではありません。アフリカの合計にはキリスト教などムスリム以外も含まれるので、「アフリカ系ムスリム」はさらに少なくなります。
インドネシア人は1年で6.6万人(33.2%)増えました。その大半は、日本が人手不足を補うためにつくった在留資格で来ています。
- 技能実習:124,967人。全国456,618人の27%で、ベトナムに次ぐ2位
- 特定技能:86,955人。全国390,296人の22%で、同じくベトナムに次ぐ2位
よく標的にされるパキスタン人(34,911人)は、性格がまるで違います。特定技能はたったの11人。技術・人文知識・国際業務7,860人、永住者5,616人、家族滞在9,211人、が中心です。最近「労働力として大量に入ってきた」人たちじゃない。家族と暮らしている人たちです。技術者としての技人国ビザが最も多く、中古車や機械輸出などの経営ビザできているから家族も呼べる。あなただって金さえあれば海外で投資ビザが一番取りやすい。
ムスリムが一番多く住んでいる地域は、中東じゃなくてアジアです。

ムスリムが多い上位4カ国も、全部アジアにあります。
| 国 | ムスリム人口(2020年) |
|---|---|
| インドネシア | 2.39億人 |
| パキスタン | 2.27億人 |
| インド | 2.13億人 |
| バングラデシュ | 1.51億人 |
そして日本は、このムスリムの多い国々に暮らしの土台を頼っています。
- 働き手:技能実習生の27%、特定技能の22%がインドネシア人。人手不足の現場を、すでに彼らが支えています。
- 観光:訪日インドネシア人は2025年に64万577人(前年比23.7%増)で過去最高。旅行消費額も過去最高の1,309億円。都会に住むインドネシア人はもう貧乏じゃないんです。
- エネルギー:2025年10月の原油輸入の中東依存度は93.7%。主な輸入先はアラブ首長国連邦、サウジアラビア、クウェート、カタールで、どれもムスリムが多数を占める国です。
- 評判:参政党の梅村みずほ議員が「日本は火葬の国」と述べた動画は、米国のアカウント経由で1280万回再生されました。日本語でぶつけたヘイトは、「ムスリムに冷たい国」という日本の看板になって世界を回ります。誰がイスラム教の悪口を言う国に石油を売りたいと思うのか。
「日本ではモスクが焼かれる」という話が送り出し国で広まったら、その費用を払うのは誰か。人手不足の日本の現場です。
摩擦が現実にあるのは確か。お墓も礼拝の場所も給食も、ムスリムが少なかったころの仕組みのままですから。だからこそ、デマじゃなく事実と制度で解かないといけない。政府もようやく動き始めています。
ただ、制度だけじゃ偏見は消えない。わたしの提案は4つです。
公立学校は、特定の宗教のための宗教教育を禁じられています(教育基本法15条2項)。一方で同じ条の1項は、宗教に関する寛容の態度と一般的な教養は「教育上尊重されなければならない」と定めている。イスラム教を含む世界の宗教を「知識」として教えることは、今の法律のままでできるんです。やってないだけ。
SNSで切り取られた一節じゃなく、文脈と、日本に暮らすムスリムの実際の暮らしからイスラムを知る機会をつくる。切り抜きで判断するのは、ムスリムに対してだけでなく、誰に対してもやっちゃダメなやつです。
憲法20条は「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する」と定めています。対象は「国民」じゃなく「何人」。モスクで礼拝する自由は、神社で初詣する自由と同じ重さで守られています。
デマが出たら、北九州市教委のように行政が文書ですぐ事実を示す。逆に、押し寄せた抗議を受けて事業を撤回したJICAの例を、前例にしちゃいけない。デマに屈したら、次のデマが勝つだけですから。
江別の放火犯は「宗教的シンボルをつぶせば、日本から出て行くと思った」と語りました。
でも、日本にいるムスリムの多くは、日本が自分で頼んで来てもらった人たちです。人手不足の現場で働いている。追い出したら困るのは、むこうじゃなくて日本のほう。
「ムスリムはテロリスト」とリポストする前に、せめてインドネシアの場所くらいは地図で確認してほしい。話はそこからです。
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年11月5日の記事より転載させていただきました。









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