日本の「軽」は米国以外で勝負できる戦略車 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

軽自動車が日本の新車市場で約35%程度のシェアまで上がっているそうです。毎月発表される国内販売のベストテンでも軽自動車が常に上位に多数食い込む流れはもう長いこと続いています。

私が若い頃は軽自動車は「おっさん、おばさんの乗る車でダサくて絶対嫌」と思っていました。その頃はトヨタカローラやコロナ、日産サニーやブルーバードが大衆車の大関、横綱として君臨し、軽自動車は農作業車のイメージが強かったものです(言い過ぎですみません)。


ところが軽自動車メーカーが軽のイメージを変える努力をしたこと、車庫証明の問題、更には燃費、価格などが不景気日本で脚光を浴びる結果となったと思います。特に軽自動車を販売するメーカーの並々ならぬ努力と市場開拓による現在の市場シェアは立派なものだと思います。

アメリカの自動車業界、更にはロビー活動を通じてワシントンあたりからも日本は軽自動車開発を止めよなどという圧力があったとも聞いていますが、軽自動車は日本の国土、道路事情、更には日本人の体格にあった実にユニークなガラパゴス商品だと思っています。

では、これを世界市場で挑戦できるのでしょうか? 私は大いに可能性が高いと思っています。

まず、世界の自動車産業のオピニオン的リーダーはやはり、その販売台数からしてアメリカだったと思います。本年度は久々に1400万台に伸びそうで、自動車大国としての力を改めて見せつけています。そのアメリカは世界の自動車市場と産業のリーダーとして自動車の「あるべき姿作り」を何世代にもわたって作り上げてきました。その主たるポイントのひとつは安全性だと思います。そしてアウトバーンをもつドイツでも同じだと思います。

その点、軽自動車はいかにも貧相で壊れやすそうで、ぶつかったら終わり、というイメージがあります。しかし、考えてみればタウンカーや配達、作業用の車として高速道路を100キロ以上のスピードで走るのを前提とする乗り方とはまったく違うと考えれば軽自動車の市場は巨大な潜在性を持つはずです。

フィリピンにはバタバタという乗り物があります。或いはタイのトゥクトゥクやインドネシアのバジャイ。それぞれの国にマッチした大衆的乗り物として活躍していますが、軽自動車も同じような源流であると考えられます。ならば、日本が今、東南アジアでの市場戦略を強く推し進めている中で新新興国における大衆の乗り物の進化の過程で日本の軽自動車は必ず受け入れられるのではないでしょうか?

日本で今、販売されている軽自動車は先進技術が詰まっていることもあり、価格的には決して安いとは思えません。例えば一番売れているホンダNボックスで130~140万円ほどしますし、スズキワゴンも120万円は下らないでしょう。この価格帯では東南アジアではまず勝負できません。

一方、ダイハツはミライースを1000ccにアップグレードしてインドネシアでアイラの名称で100万円を切る価格で売り出すそうですが、私はいらないものを全部落として技術も先端ではなく成熟したものを組み合わせ、大衆の収入層にあった商品を投入すべきかと思います。価格は直感的ながらもっと安い50~70万円程度ならば爆発的な市場開拓が可能だと思われ、それで市場をまず制覇することが肝心です。その後、経済成長に合わせ、長期的に買い替え層に更に上のグレードを日本お得意のアフターサービスでフォローをかけながら国の成長と共に歩むぐらいの気持ちが必要かと思います。

GDPと大衆車の価格は国家の成長期には同期する関係がありますから価格戦略は売る側の理論ではなく、買い手の財布の中身が決め手であって、論理的に設定できると思います。

確かに車といえば先端技術満載でピカピカの車を自信ありげな社長さんが片手を車につけた写真のイメージが強いと思います。でもそんなマーケティングから車市場の多様化を考えるべきではないでしょうか? そういえば先日、新聞の広告にフォルックスワーゲンのユニークな広告がありました。車の写真がない広告です。こういう斬新的なアプローチが車業界にも必要ではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年11月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。