マスコミは、B-787を「準国産」と呼ぶべきではない!

北村 隆司

ボーイング787型機の主翼を三菱重工、前部胴体を川崎重工など機体部品の35%を日本メーカーが担ったからと言って、B-787を日本の「準国産機」と呼ぶのは間違いである。

日本の部品が多く採用されたとは言え、日本メーカーはボーイング社の対等のパートナーではなく、仕様書に従って部品を製作した下請けに過ぎない。従い、その責任は自社が納した個別具体的な部品の品質保証を超えるものではない。

今回調査対象となった「リチウムイオン電池式」のバッテリーの製造元のGSユアサの責任範囲も同様である。


日本の新聞が「この電池が高性能の一方で危険性が指摘されてきた」等と報道して、如何にも「リチウムイオン電池式のバッテリー」を供給した「GSユアサ」に責任の一端がある様な書き方は、訴訟社会の国際取引では極めて危険である。

しかも、一部の報道が「実はB787が開発されていた07年当時、ずでにその危険性が議論されていた」等と「だから言っただろう」式の話を航空安全コンサルタントにと語らせる事も余計なお世話である。
B-787の仕様には、全日空の意見が反映されたとか、東レや三菱重工業などの日本メーカーも多数参画したとあるが、新型機の最初の顧客となる航空会社が、自社の希望を仕様に反映させるのは当たり前の商慣行であり、日本の部品メーカーが自社製品に有利な仕様を採用させようと働きかける事も通常の営業活動に過ぎない。

繰り返すが、日本の各メーカーを選択したのはボーイング社であり、日本メーカーは購買仕様書通りに部品を製作納入したにすぎない。しかも、各メーカーは独立して活動したのであり、「日の丸」の下に結集した訳でもない。

これは、アメリカのデュポン社が世界で初めて合成に成功して、一世を風靡した「ナイロン」を使った「ファッション製品」を、「準アメリカ産」等とは言わず、中国製や韓国製の部品の供給数や総重量に占める割合が如何に高いと言っても、i-phoneを中国や韓国の「準国産」と呼ぶ人がいない事と同様である。

「準」の意味を辞書で牽いて見ると「それに近い取り扱いを受けること」とある。

「訴訟社会に突入した今の世界」で、日本のマスコミが「純国産機」等と宣伝すれば、下手をすると「日本メーカーがボーイングと近い責任」を取らされ「ボーイング社との共同正犯」扱いを受けかねない。

グローバル化の問題を頻繁に取り上げるマスコミだが、記者のグローバル化が遅々として進まず、日本のイメージを傷つけ日本産業の国際進出の障害になっている事は皮肉である。

因みに、私が接する英字新聞や英語放送で、B-787を「準日本製品」と呼んでいる海外メデイアは見当たらない。

2013年1月28日
北村 隆司