橋下徹氏は日本政府の立場を守るべきだ

池田 信夫

ここ数日の慰安婦をめぐる橋下徹氏の話は、論点がずれてきたように思われる。大阪市議会では「慰安婦の利用が全く許されるものではないという前提で、日本だけでなく、第2次大戦当時は世界各国も戦場の性の問題として、女性を利用していたではないかという話だ」と答弁した。そして昨夜のぶら下がりでは、次のように言っている。

今までこの慰安婦の問題のことで、強制連行の有無を論じて、それは日本の責任を回避するような論調で言ってきた政治家はたくさんいますので。そこに対して主張をきちんと押さえるべきじゃないですか、今までの考え方はどうだったんですか?ということで。大前提として日本の責任を認めるということであれば、僕は慰安婦問題で、政治家レベルで不毛な議論はもう行われないもんだと思ってますけどね。

彼はどうやら「強制連行の有無に関係なく、慰安婦の存在について日本が責任を負う」という立場に変化したらしいが、これは従来の日本政府の見解を踏み超えるものだ。

河野談話でも「いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる」という曖昧な表現で、日本政府の責任は認めていない。認めると、韓国政府の要求しているように慰安婦への個人賠償を行なわざるをえないからだ。

日本政府に責任があるなら賠償するのは当然だが、いったい何の責任なのか。橋下氏も弁護士だからわかるだろうが、国家賠償を請求するには公権力の行使の立証が必要だ。慰安所は民間業者が慰安婦を募集して経営していたのであって、公権力で徴用したわけでもなく、料金が国庫に入ったわけでもない。軍は現在の風俗営業店に対する保健所のような監督官庁の立場であり、業者の不祥事で保健所が賠償することはありえない。

橋下氏が慰安婦について個人的に責任を表明するのはいいが、彼は日本維新の会の共同代表として政府に影響を及ぼす立場にある。彼の発言を根拠にして韓国政府が日本政府に個人賠償を請求してきたら、大混乱になる。日韓政府の争点は強制連行の有無であり、韓国でさえ慰安婦の存在そのものを問題にはしていない。橋下氏は日本政府の見解を守り、事実関係の明確化に徹すべきである。