テキスト140文字の制約を課されたシンプルなメディア Twitter はもはや存在しない。Twitter がめざすのは、あらゆるコンテンツを発見し、それを体験する機能を備えたユニバーサルなメディアブラウザだ。Twitter が取り組む Cards 機能からその展開を分析する。
Twitter がメディア(産業)への影響力を高めています。
同じソーシャルメディア、規模という点で Facebook の後塵を拝している感のある Twitter ですが、どうして、メディア(産業)の将来に向けて大きな鍵を握るべくアプローチを重ねています。
最初に、著名なコラムニスト Michael Wolff 氏の論を紹介しましょう「Twitter is about to change the news media – again」(再論:Twitter はニュースメディアを変革しつつある)。
われわれは、オールドメディアとニューメディアの変曲点を迎えている。音楽や書籍、TV 分野のオールドメディアは、iTunes、Amazon、Netflix ら新たなデジタル配信事業との間で、視聴者維持のための深刻な課題を抱えている。変曲点は、この配信事業において、オールドメディアにはなかった、競合が存在しないような圧倒的な優越者をまもなく生み出そうとしているのだ。
Twitter は、ニュースのスピード、(読者の)参加、リーチで先を行き、旧い配信事業を新たな配信モデルで破壊しつつある。そして、Twitter は、ニュース産業を変曲しニュース配信事業における単独の変革者になろうとしている。
Twitter がメディア(産業)において唯一無二の存在になろうとしている……といえば、大げさ聞こえるかもしれません。しかし、“コンテンツの唯一無二のディストリビューター(配信事業者)になろうとしている”という意味では、決して大げさではないというのが、筆者(藤村)の理解です。
コンテンツ配信の変革者たる Twitter。本稿ではこの点の可能性について焦点を絞って分析していきます。
Twitter は、従来の140字を上限とするテキスト投稿という基本的な機能に、最近になって「Twitter Cards」(以下、カードと呼びます)という、140字制限やコンテンツフォーマット(形式)を超えた各種コンテンツとの連携機能を追加してきています。サードパーティは、自らのコンテンツに Twitter 指定のメタタグを数行追加するだけです。
サードパーティに公開されているカード機能は下記の通りです(原文は → こちら)。
- サマリーカード:コンテンツのプレビューや要約を表示する機能
- ラージイメージ・サマリーカード:大型の写真コンテンツをプレビュー表示する機能
- フォトカード:ツィートサイズで写真を表示する機能
- ギャラリーカード:複数写真など順次表示する機能
- アップ(アプリ)カード:他のアプリを起動してコンテンツを表示するディープリンクやアプリインストールを誘導する機能
- プレーヤーカード:動画やオーディオコンテンツをプレーヤーを起動して呼び出す機能
- プロダクトカード:製品などの構造的データを表示する機能
脱線ですが、写真共有サービスでポピュラーな Instagram が、ツィート内でその写真を表示する取り組みを廃止したという“事件”がありました(参考 → こちら)。
それまで Twitter と Instagram は協業のうえ、上記フォトカード相当の機能を実装し、Instagram から写真を Twitter 経由で共有すると、ツィート内で写真を直接表示できていたのです。
ところが、Facebook による Instagram 買収が背景からか、その連携がキャンセルされてしまいました。おかげで、現在では Instagram の写真を Twitter で共有しても、フォロワーはツィート内の URL から Instagram サイトに遷移して写真を表示するしかないという“不便”を強いられているのです。
カードに見られるサードパーティコンテンツへの“イン・ツィート”的アプローチは、Twitter の今後の巨大なメディア戦略を表すものです。
最近になって同社は、音楽共有サービス「We Are Hunted」を買収しそれを 「Twitter #music」という純正楽曲配信サービスとして再提供を始めました(詳しくは → こちら)。
いまのところ、#music は、ユーザー向けサービスでありサードパーティ向け拡張機能については語られていません。しかし、上記の紹介記事には次のような記述があります。
#Music は、iTunes、スポティファイ、Rdio から曲を集めているが、今後、他のサービスも統合されていくようだ。デフォルトの状態では、ユーザーは、iTunes からは曲の一部(30秒間)のみを聞くことが可能であり、また、Rdio とスポティファイに関しては、認証情報を使ってログインする必要がある。
ポイントはこうです。当該サービスは、楽曲をめぐるソーシャルな評価やメタコンテンツ類などを Twitter が得意とするソーシャルグラフとタイムラインを介して提供する仕組みであり、ユーザーは出会った楽曲をいざ耳で確かめようとすれば、楽曲コンテンツを保持するサービスと連携してそれをプレイできるというものです。
このサービスモデルは、述べてきたようなカードと同様のアプローチであることがわかります。
冒頭に紹介した Michael Wolff 氏が述べる“Twitter はニュースメディア(の配信)を破壊する革新者である”という定義に、それは深く関わっています。
ここで「配信」(Distribution)を、旧来の“流通”という概念から拡張し、「コンテンツの発見と体験」(Exploration and Experience)と理解すれば、その意義の大きさが見えてくるはずです。
現在の消費者は多様化し溢れかえるほどになったコンテンツから、最適な出会いや発見をもたらす存在を、検索エンジンに代わって求める時代がやってきているのです。この出会いや発見がなければ、すべてのコンテンツは存在していないに等しい時代と言い換えてもいいでしょう。Twitter はこれを統合しようとしているのです。
筆者(藤村)なりの整理を追加していきます。
Twitter の主要なコンテンツは、かつては、ユーザー(自分)がフォローする人々(ソーシャルグラフ)の140字を上限とするツィート(テキスト)に止まっていました。“自分と関係の深い人々の動向と、彼らが注目する話題”の情報と商業メディアによる話題の紹介が得られる、パーソナルなメディアとしてのポジションが形成されました。
いまそれは、大きく拡張されています。
- 自分のソーシャルグラフが注目するコンテンツを知ることができる
- 全世界や国・地域といった大規模なユーザー間での話題・注目のコンテンツを知ることができる
- 商業メディアや専門家ブログを通じた専門的な評価(レビュー、キュレーション等)を知ることできる
- 記事・音楽・動画・写真などのコンテンツそのものやプレビューを体験できる
フォローしている人々のホンネや動向自体が面白いコンテンツであるというパーソナルメディアとしての Twitter の位置づけは、いつの間にか、世にある多種多彩な価値あるコンテンツやメディアの存在を発見し伝える、メディア界の全体へとアプローチする“メディアのメディア”としての地位を築きこうとしているのです。
ニュースメディアとしての Twitter、楽曲サービスメディアとしての Twitter。ケースは様々ですが、これらは Twitter が多様なメディアやコンテンツ発見と追跡の入口になることを意味します。
カード連携のモデルは、コンテンツのタイプ(形式)を問わず、その内容をツィート内で体験することを可能にするものです。いずれ、たとえば(電子)書籍の魅力的な箇所を共有し合い、購買に結びつけたり、あるいは、ゲームアプリの面白い箇所を、そのアプリを持たない友人に共有する(ダウンロードを促す)などへと拡張していくことは既定のコースでしょう。
筆者(藤村)は、ユーザー一人ひとりの多様なコンテキストに沿ったコンテンツの発見と提示、それを最適な環境で表示するという、新たなコンテンツ体験モデルを思い描きます。
コンテンツのタイプ(形式)を超えた発見と体験を、ひとつのタイムライン内で実現しようとする Twitter の野心的な試み。これは、「ユニバーサルなメディアブラウザを構想する」で論じた、“ユニバーサルなメディアブラウザ”への最短距離にあると見なすことができるものと思います。
この先も Twitter の進化から目を離せません。
(藤村)
編集部より:この記事は「BLOG ON DIGITAL MEDIA」2013年6月10日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった藤村厚夫氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はBLOG ON DIGITAL MEDIAをご覧ください。