中国で相続税を設ける話が出ているそうです。日経の「中国、相続税報道にピリピリ」という記事をお読みになった方もいらっしゃるでしょう。以下、その一部です。
「有力経済紙『21世紀経済報道』が9月下旬に報じた。それによると、国務院のアドバイザーにあたる劉桓参事が『3中全会(党中央委員会第3回全体会議)の文章の草稿に相続税が書き込まれる』と語ったという。11月に開く3中全会は、習近平政権の経済政策の方向を打ち出す重要な会議。もし本当なら、相続税の導入がついに視野に入ったことになる。」
記事は劉桓氏がこの記事を全面否定したことでことの真偽は結局わからずじまいでありますが、万が一にも中国で相続税が真剣に検討されているとしたら何が起きるでしょうか?
それは個人マネーの国外大流出であります。
1997年に香港が中国に返還される前、香港では中国返還後に個人資産はいつか中国政府のコントロール下になる、と噂され、多くの香港人は資産のディバーシフィケーション(分散化)を図りました。その結果、オーストラリアやカナダなどに移民権を取得し、その国に不動産などを購入、家族と共にいったん、国外に出て、個人資産を分散させるという手段に出ました。
このバックグラウンドは中国では共産党一党支配化において個人の富は共産党の考えに合わず、いつ、何が起きてもおかしくないと考えていることがあります。その上、中高年ならはっきり覚えているあの忌々しい文化大革命。紅衛兵が「資本主義の回し者」とつるし上げを繰り返し、個人資産を根こそぎ没収した事件は中国を恐怖のどん底に陥れました。
中国における相続税の噂とは一部の富裕層にとってまさにそれ思い出させる恐怖となるはずです。ましてや一部共産党員が袖の下で溜め込んだ資産は絶対に表に出せないもの。一方で共産党員となればそう簡単に海外に移住というわけにはいきません。そこでその家族を合法的に海外に出し、家族に資産を移すという手法もあります。事実、そういう人は私の周りにも複数存在しています。
中国富裕層が海外に移住するとなると移住しやすい国は限られます。また、中国人は一定規模のチャイナタウンがある街を好むとすればたとえばカナダならバンクーバーやトロントが再び、中国から注目される公算が出てきたということになります。
習近平体制では格差社会は許されないものという強いステートメントを発していますので相続税による富の再分配は理論的にはありうる話だと思います。となると中国の人は噂の前から行動に移しますからまさに今、再び、資産分散の動きが活発化することは大いにありえます。
ただし、カナダが中国人の移民を今までどおり受け付けるかというと案外そうではなさそうです。カナダの場合、今まで投資移民、経済移民を積極的に受け入れてきましたが、これならば金持ちならば移民権を「購入できる」という見方が出来てしまいます。カナダ国内ではこれについて大きな議論となり、「カナダ経済に便益をもたらす」ということによりウェイトをおくようになってきています。この便益とは人の雇用であったり、経済の波及効果などをさしているわけで「単なる金持ち」が移民することは難しくなったかもしれません。
もっとも中国人のことですから金持ちが実際にビジネスをドライブできる人を雇ったりパートナーにするなどの抜け道は直ぐに見つけ出すのだろうと思いますが。
中国の相続税の噂はもしかしたら日本への不動産などの投資も含め、何らかの影響はあるかもしれませんね。この動きは注目したいと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年10月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。