インフレが良くないのだから、それを意図的に起こすリフレは良くない。
当然だ。
しかし、話はもう少し複雑で、先がある。
現在、日本でおき始めている物価上昇は、いわゆる輸入インフレだ。
円安により、原材料などの輸入コストが上がり、モノの価格に転嫁され、上昇している。
ガソリンが上がり、電気代が上がり、輸入ブランド品だけでなく、サービス産業を含めてコスト高に直面している。
あるいは、パソコンもテレビもあがっている。これは、需給関係の問題もあるが、コスト面で言えば、ドルベースで価格の決まっているCPUが円ベースでは25%価格アップだから当然だ。PCは部品はほとんど輸入品だから当然だ。
テレビなども国産でないものの方が多いのだから、ほとんどすべての電気製品も値上がりせざるを得ない。家電メーカーが円安で、白物などを中心に(日本メーカーの製品はほとんど輸入なので)むしろ減益要因になっていることが典型例だ。
これは実質購買力の低下そのものであり、経済水準は低下する。
同時に、輸出とは無関係だから、給料が上がるどころか、減益要因だから給料は下がるだろう。
現在、景気がいいとか、賃金の引き上げといっているのは、輸出産業と消費財産業だ。消費財産業が好調なのは、株式市場の上昇、世の中の雰囲気の改善によるものだ。
これは一見良く見えるが、資産の食い潰しだ。
今までためていたものを消費で吐き出して、目先の景気はいいが、50年タームで見れば、貯蓄を食いつぶして、今までよりも高いイタリアバック、スーツを買っていることに過ぎないからだ。
これに対する有力な反論は、資産価格の上昇により、むしろ国富は増えているのではないか、ということだろう。
そう。リフレがやばいかどうかは、量的緩和による資産価格の上昇をどう捉えるかにかかっている。
まず、資産価格は円ベースで見るほど国際的には上昇していない。ドルベースで見れば25%ディスカウントだから(これは有吉ゼミでデヴィ夫人がみんながあがっているというのを聞いて、不思議そうに言っていた)、その分は、国際的な力関係を見る場合には割り引いて考える必要がある。
しかし、ドルベースで見ても日本株が成熟国では一番上がっているのも事実だ。これをどう考えるか。
リフレ政策により株価が上昇した理由は、focal pointの変化である。これまでの過度の悲観、株式市場、日本経済に対する過度の悲観を解消するきっかけになったのがリフレ政策、アベノミクスだった。中身がどうであれ、萎縮均衡を打破したことはプラスだ。
しかし、逆に言うと、中身についてはどうでもよかったので、この萎縮均衡からの脱却は、過去のすばらしい実績だが、今後は関係ない。
今後は、ファンダメンタルズからいくと、資産価格の上昇は将来をすべて先取りしたものだと考えるのであれば、モノのインフレが、資産価格の調整にあわせてゆっくり上がってくることになる。そして、資産価格の上昇とモノの価格の上昇、つまり、インフレが整合的な水準になる。
つまり、インフレがきちんと起こるとすると、それは資産価格の上昇、株価の上昇による利得を実質的に帳消しにするような調整として起こるということだ。
それは意味がない。
むしろマイナスだ。
したがって、今すぐ、インフレがこれ以上起こることを止めなくてはいけない。ただし、重要なのは、萎縮均衡からの脱却という成果は残さないといけないということだ。インフレは止めつつ、元の萎縮均衡には戻さない。そのような政策が求められる。
これこそが、日本の金融政策における独自の「出口戦略」問題だ。