きのう磯崎さんとツイッターで議論したことを整理して、超簡単にシミュレーションしてみます。私の論旨は、NTTの構造分離(1社独占)よりも政府が持株をすべて売却してNTTを完全民営化し、ソフトバンクがLBOでNTTグループを買収してはどうかというものです。もちろん、こんな巨大買収は容易なことではないので、これは頭の体操だと思ってください。
NTTの時価総額は約6兆円だから、プレミアムがつくと7~8兆円の日本史上最大の企業買収になるでしょう。しかし世界のM&Aの中では、ボーダフォン=マンネスマンやAOL=タイム・ワーナーなど、10兆円を超えるディールもあり、兆円単位の買収は通信業界では珍しいことではありません。ソフトバンクの時価総額が2兆3000億円だから、バランスとしてもそれほど悪くない。
もちろん従業員20万人のNTTグループを経営することはむずかしいので、時価総額6兆円のドコモだけを残して、NTT東西、コミュニケーションズ、データなどはすべて売却し、持株会社は廃止します(このとき株式交換でNTTドコモの全株を取得すればよい)。これらの会社の現在の時価総額は約2兆円ですが、ファンドに売れば経営を合理化できるので、もっと高く売れる可能性もあります。こういう「全株買収・固定売却」という方式の買収は、ボーダフォンがマンネスマンや日本テレコムなどで行なったものです。
ただしソフトバンクが2つの携帯免許をもつことはできないので、ソフトバンクモバイルは売却すればよい。つまり結果的には、孫正義氏がドコモの社長になるだけです。企業買収はソフトバンクの得意分野であり、1兆7000億円でボーダフォンを買った実績もあります。そのときと同じノンリコース・ローンを組めば、資金繰りの不安は除去できるのではないでしょうか。
最大の問題は、ボーダフォンのときのように資金が集まるかどうかです。ソフトバンクの試算によると、NTTがインフラをすべて光に替えれば2016年から年間3000億円以上の営業利益が出るそうだから、この計算が正しければ資金は集まるでしょう。市場がどう評価するかは、ぜひアナリストのみなさんの投稿を待ちたいところですが、私はこれは次の点で少なくともNTTの構造分離よりはましだと思います。
- 構造分離という強い規制をする必要がなく、NTT法を廃止できる。これによって25年以上続く不毛な「NTT問題」に終止符を打ち、通信が100%民間の産業になる。
- アクセス回線会社の収支計算がおかしいという競合他社の批判をまぬがれることができる。国策会社にする場合には、赤字が出たら政府が補填しなければならないが、ソフトバンクが経営責任をもてば問題はない。
- NTTの非効率な経営(18万人でドコモの1/4の利益しか出していない)を改めて企業価値が上がり、孫正義氏がリードすることによって日本の通信業界が活性化する。
NTTドコモは、実はNTTグループの中継網のかなりの部分をもっているので、ソフトバンクは日本最大の光ファイバー網を保有することになり、通信・放送の融合サービスもできます。むしろ問題は、孫正義氏が「ドコモバンク」を合理的に経営すると、他の会社をはるかに上回る強力な企業になり、携帯電話で圧倒的なシェアをもつことですが、これは周波数オークションによって競争を導入すれば防止できるでしょう。
このとき参入してくるライバルは、最近、日本で企業買収を増やしている中国資本でしょう。このような資本市場でのグローバル競争によって日本経済を再生させることが、成長戦略としても王道だと思います。
コメント
刺激的なポストだったので、NTT的視点で意見させてください。
◆ツッコミ
> アクセス回線会社の収支計算がおかしい
まじめに計算してますよ。NTT儲け出てませんよ?
> NTTドコモは、実はNTTグループの中継網のかなりの部分をもっているので
これは嘘だと思います。
NTTドコモはドコモ専用網。
◆NTTの非効率な経営を改めて企業価値が上がり、孫正義氏がリードすることによって日本の通信業界が活性化する。
なぜ非効率か。
社内の目線から見た感覚で意見させていただくと。。。。
?NTT法や分社化が妨げとなって、非効率性を生んでいる。
各社が網なりシステムを持たないといけない。
グループ間連携が十分にはかれない。
ズタズタに分社化してたら連携も取れないっすよ。
普通サービス考えるなら垂直統合的に考えるのがベストなんだがなぁ。
KDDIやソフトバンクのような携帯+固定電話のサービスもできないですしね。
?儲からない光インフラ敷設をまじめにしているから
光事業が70%もの圧倒的なシェアを持っているのに、黒字化しないのは、
「烏合の衆のようなあほ社員しかいないからだー」としか映らないのは外からでは仕方ないと思います。
-通信業界
通信業界は、NTT等(KDDIやソフトバンク?)がトップでサービスをして、
その下に通信建設業界があり、そちらに発注しています。
まじめに単価をはじいて、このエリアもあのエリアもと設備を作っていくわけです。
まず、そのコストが高い。。。これは業界を考えると仕方ないです。
コストを下げようとすると、業界を圧迫します(トヨタの子会社いじめ的な)。
でもいいなら下げましょうかね。
-エリア展開しすぎ
まじめなので、採算ぎりぎりやギリギリアウトのところでも、攻めていくわけです。
ソフトバンクがなぜモデムを配っていた時代から、今を思うと。。。配ってます?
営業費を圧倒的にカットして、大分前にかせいだ加入シェアADSLで、悠々自適に黒字化して、
光を自前で張ることもやめてますよね
(NTT局舎をていきょうしてもらって同じ(?)土俵に上がったのに、採算あわないから。)
ソフトバンクさんのように思い切って儲からないところはやめたらいいんですけどね。
となると、地方のみなさんは困るので、やはり使命としてやっていかないととなるんですよね。
自分も含め、そういう思いで働いています。東京にいるとわからないでしょうがね。
。。。私はこれが真相の有力な要素だと思うんですがいかがでしょうかね。
?貸し出しコストが安すぎ
ソフトバンクさんやKDDIさんに自前の設備を貸し出しています。
これは、電話線(銅線)については、公社時代のものなので、仕方ないと思います。
でも、光ファイバについては、NTT民営化後のものなので、
貸し出したくありません。でも、同じ条件で貸し出しています。
あと、公平(NTTにとってはそれでも不公平だが)条件で貸し出してもやらないのは、
やっぱ儲からないからだろ?って確信してしまいます。
しかもまじめにコストの算定をして定めた変動制価格を引き上げると反発するわ、
分岐貸しとかむちゃくちゃ言うし。
?大企業病
まじめに議論して議論して。。。冒険的な結論を出してリスクのない方法を選ばざるを得ない体質があるから。
会社内のコストの締め付けはきつくなって筋肉質な経営体型になろうとしてるんだが、
そうなると、冒険できないんですよね。
というわけで、まじめに地方のことも考えて利益ど返しでやってるから、
利益がでないんだ。というひいき目に映るかもしれない真相もあるんですよ。
あーあ、まじめにやりすぎてボーナスあがんないよな。
てか、総務省での話し合いで分けわからん不当に安い貸し出し料金やらのルールを作られて、
儲けを取られて、僕らの利益が出てないんですが。。。的な。
もういい加減な議論はやめて、最終ルールとして定めてもらわないと、
社員のモチベーションあがんないんすけど。
Deutsch Telekomなんて、国有化止めて、自由にさせといたおかげで、
世界中に展開してるってのに、日本はNTTを縛って国内の公正競争(笑)にしたおかげで、
ボロボロだし、技術力は持ってるのに世界標準も取れずにガラパゴスになってるんですよね。
もうちょっと視野を広くと思うんですよね。
以上、NTT*の社員でした。
>alonzo30さん
私はあなたのように完全なインサイダーではないですが、
つい最近までごく浅い部分でNTTの内部を見聞していました。
私の視点からだと、最後に上げられた大企業病がもはや末期で手が付けられない状態になっているように映っていました。
実際おっしゃるとおり、皆さんクソがつく真面目で、枝葉のところで必死に業務をされてますが、抜本的な問題には誰も取り組もうとしません。
「ずっとそうやってきたから」というようなタダの慣習による非効率がそこかしこにありました。
みんなそれが無駄であることを分かっていながら、面倒を避けて誰も着手しない。とりあえず現状維持。無駄は垂れ流しだけど誰も文句は言わないし。そういう”空気”に満ちていたように思います。
それこそ「国が解放してくれないと手足もがれちゃって何にもできないよ」というような諦観がその空気の正体かもしれませんが。
>でも、光ファイバについては、NTT民営化後のものなので、貸し出したくありません。でも、同じ条件で貸し出しています。
独占公社が民間企業になって、設備と顧客を引き継いで、ゼロ同然から出発した新規参入企業と(米国や韓国のような厳しい非対称規制の無い)市場競争してきたのですから、光ファイバでも独占状態になるのは「当たり前」と言えます。これだけ一方的に有利な条件を与えられた企業が、他社に光ファイバを貸したくない、というのは傲慢に聞こえます。
>?NTT法や分社化が妨げとなって、非効率性を生んでいる。
本来の分割民営化は、分割された個々の企業同士が市場で競争し得るような独立した経営形態でした。それがどういう訳か現在のように名ばかりに分割され、実際はHolding Companyによってグループ全体が一体のように統治されています。非効率性の元凶はここにあるのでしょう。企業は大きくなり過ぎると、非効率で非生産的になります。それは衰退する日立みれば明らかです。
このような非効率を解消するには、池田氏も指摘するように、ドコモはNTT経営陣と決別し、MBOにより独立して、若い経営者達がもっと自由に経営し、市場競争すれば良い。ドコモの収益がなくなって収支が保てないグループ会社は整理されれば良い。民間企業であるNTTの使命はユニバーサルサービスではなく、民間企業としての健全な市場競争と経済発展です。
http://www.ntt.co.jp/csr_e/2007report/03.html
これは何れにせよ「頭の体操」ですから、気軽に一言だけコメントさせてください。(私がソフトバンクに勤務していることは、しばらく忘れてい下さい。)
1)中国では、共産党の指示で、現実にある日通信3社のトップが突然入れ替わりました。(孫さんが突然NTTの社長になり、三浦さんがソフトバンクの社長になるといったことが、本当に起ったのです。)日本でももしそんなことが起ったらどうなるか、空想してみるのは面白いですが、日本では、NTTだけが間接的に国が支配する会社ですから、こういうことは起るべくもありません。MBOも、仮にソフトバンクが莫大な資金を動かせる状況になったとしても、色々な抵抗があって、先ずは出来ないでしょう。
2)孫さんの考えている「光アクセス会社」は、「自らは上部構造である情報通信サービスには一切手を染めず、経営を完全にガラス張りにして、全ての通信サービス会社に公正な条件で施設を貸し出す」ことがポイントですから、サービス会社であるソフトバンク自身がこの会社を保有したのでは、全く自己矛盾を起こしてしまいます。従って、この観点からも、本件は起りえません。
ということで、これは少し早い「真夏の夜の夢」です。
刺激的なお話、ありがとうございました。
松本さんが仰られているように分離させた会社がサービスも、となると分離の意義が薄れてしまいますし実現性は低いでしょうが、思考実験としてシミュレーションを行うことはNTT問題をまた別の視点から見ることができ、大変有意義でした。
少し、関係してるトコロの人間として気になった点を。
(とは言っても、私も駆け出しのぺーぺーなので可能ならば社会の大先輩の方々に教えて頂きたいことなのですが・・・)
>光ファイバの貸し出しに関して
電話網の貸し出しに関してですが、電電公社・NTTの成立の歴史を考えるに公平貸し出しはやはり必要ではないでしょうか。
民営化後のファイバの取り扱いに関してはbobby2009さんのように「貸し出しは当たり前」とは思えませんが(現状、本当に収益性の高い所のみファイバを借りる、美味しい所だけどり・・・設備競争が逆に停滞してませんかこれ)、そこはそれ、法律を上手く活用して自社の収益を向上させるのは経営者として当たり前なのではないでしょうか。
>MBO
孫さんの方もNTT法なんて付いてくるNTTのMBOなどは考えないのではないでしょうか。
NTT法で縛られると孫さんの持ち味である軽妙なフットワークが殺されてしまうのでは・・・一孫さんファンとしては手足に枷のある孫さんはあまり見たく有りません・・・
孫さんは移行コストを妙に安く見積もってアジテーションしなくても良いのではないでしょうか。
アクセス網分離の必要性を正しくとうとうと説かれるだけで充分、国民の皆様には(税金の投入の必要性も)分かって頂ける筈ですし、自分も税金(あるいは国の借金)が多少増えたとしても今後の発展を考えると必要な投資ではないかな、と。
変に数字で誤摩化すと痛くもない腹を探られてしまう羽目になりかねないと思うのですが・・・
あー、楽しかった!