【映画評】ドッグ・イート・ドッグ

ドッグ・イート・ドッグ (ハヤカワ文庫NV)

服役を終えて出所したトロイは、刑務所で知り合った仲間で、薬物中毒のマット・ドッグ、巨漢のディーゼルと再会する。先が見えない未来を変えるため、仲間思いのトロイは、地元ギャングのボスに相談し新たな仕事を請け負うことに。それはボスへの借金を返済しない男の息子を誘拐し身代金を要求するというもの。簡単な仕事に思われたが、予想外の展開へと発展し、3人は追われる身となってしまう…。

誘拐を請け負った前科者の男たちが追い詰められていく様を描くクライム・サスペンス「ドッグ・イート・ドッグ」。タイトルは“喰うか喰われるか”の意味で、原作は、自らも服役経験があり、獄中で書いた小説で作家になったエドワード・バンカーの犯罪小説だ。バンカーは11歳で少年院に入ってから20数年、ほとんどを刑務所の囚人として過ごしたというから、かなり異色の小説家である。暴力や犯罪、刑務所の描写は、経験を踏まえているだけあって、リアルだと評判で、本作でも情け容赦ないバイオレンス描写やムショ仲間特有の腐れ縁などが詳細に描かれている。主人公のトロイは仲間思いで恩義に厚く“比較的”まともな男だが、マッド・ドッグはコカイン中毒で誰もが手を焼くキレやすい性格。家庭持ちで取り立て屋のディーゼルは、普段は温和だがキレたら怖い巨漢の男だ。こんなアブナイ3人組の仕事が無事に済むわけがなく、人生の一発逆転を狙った大仕事は、偶然や必然、悪運に疑心暗鬼が重なって、堕ちるところまで堕ちていく。まぁ、ダメ男の負け犬たちがたどる運命は最初から予想がつくのだが、それにしてもウィレム・デフォーの狂犬ぶりはすさまじい。

本作の通奏低音は、暗い色調の映像と運命にからめとられてがんじがらめになる男たちのハードボイルドな転落ぶりだ。手あたり次第に役を引き受けている感がある、近年のニコラス・ケイジの仕事ぶりを見ていると、彼が出演するならB級映画と安易に思われがち。あながちハズレではないが、むしろ本作はカルト映画の部類で、バイオレンス描写の合間にシレッと挿入される乾いた笑いに独特の味がある。クールなモノクロ映像で始まる冒頭、トロイが、先に出所していたマッド・ドッグからプレゼントされたスーツに対して礼を言う。「スーツをありがとう」。直後にカラー映像になり、それが「誰が着るのか、こんなモン?」状態の鮮やかな青緑色のスーツだと分かり、思わず吹き出して笑った。
【55点】
(原題「DOG EAT DOG」)
(アメリカ/ポール・シュレイダー監督/ニコラス・ケイジ、ウィレム・デフォー、クリストファー・マシュー・クック、他)
(ハードボイルド度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年6月21日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。