プーチン大統領の記者会見の内容を見て思わず、切り回しの仕方に技を感じてしまったのは私だけでしょうか?
ウクライナの政変自体を違法なものとしながら、クリミアについてはロシア人保護の目的であって、ロシアが併合することもないし、あくまで自主的にその判断をすべき、としました。そのうえ、軍事介入を行う段階にはないという表明をし、世界の懸念を和らげることになりました。これを受けて世界中の株価は大きく上げ(特にアメリカ市場)、セーフヘイブンだった円と金が売られる展開となりました。
テレビで映るクリミアの人々の表情は心配げではありますが、そこまで悲壮感漂うものではなく、今回の問題の行方を物語っているような感じがします。
私は数日前のこのブログで戦争にはならないと思う、と書かせていただきました。理由は戦争をしなくてはいけない明白で緊迫した理由がないように思えるのです。確かにクリミア半島は歴史的にも様々な経緯を経ておりますが、今の時期に世界の主要国同士が戦争にそう簡単に踏み込めるものではないのです(同じことは日中間にも言えます)。では、ロシアは何を考えて軍事介入の一歩手前まで踏み込んだのでしょうか?
私にはプーチンが策士であったように思えるのです。それはオバマ大統領を試したかったのかもしれません。
11月4日にアメリカで中間選挙が行われます。当然ながら夏ぐらいからアメリカ国内では大きく盛り上がります。今年に入って民主党と共和党が揉めない理由は中間選挙を前に国民から批判を受ける行動を避けたいという実に保守的な動きであるからです。そんな中、オバマ大統領は議員ではないものの民主党のドンとして今後数か月間はその行動ひとつ一つが特に注目されるのです。
そこにウクライナの問題が生じました。オバマ大統領としてはこの外交判断は中間選挙対策としては極めて重要であり、外交上の勝利を獲得する必要があります。そして、アメリカには元来、「力には力で」という思想がありますのでいざとなれば忘れかけていた「アメリカは世界の警官」という発想も再度、持ってこなくてはいけない状況にあったと思います。
その前哨戦としてG8の準備作業への参加を中断したり経済制裁を科すことを検討したり、という「強いアメリカ」としてのボイスを打ち出したのですが、どれも威厳がなかったように思えます。それは欧州もロシアのガス供給を止められては困るという微妙な立場にあり、思い切ったポジションを取れないことがあるでしょう。
シリア問題でプーチン大統領に一本取られたオバマ大統領としてはもともと外交に強くない手前、こういう舞台には出たくなかったはずです。そこをプーチンが突いてオバマ大統領を窮地に追い込む作戦だったとすればプーチン大統領に技あり、ということになります。
ウクライナの国家そのものは経済的には低迷しており、欧州も直ちに金融支援などをする「理由」に欠ける気がします。ウクライナのNATO加盟をめぐる問題で西側とロシアは激しい戦いを見せていることもコトを複雑にします。
それらの背景を考えると欧州も経済的にまだまだ病み上がりといえるところにも到達していない今、これ以上の「面倒なこと」はなるべくなら避けたいという思惑があって当然です。プーチン大統領としてはウクライナ問題に焦る必要はなく、自国に有利な展開を作り出すというのが本音のように見えます。国連も常任理事国であるロシアが主導権を握っている以上、ほとんど無力化ですが、ロシアの言い分を思う存分聞かせるという意味では「論戦を通じて世界を掌握」することも可能なのかもしれません。
今後の展開は引き続き注視していきますが、私の興味はむしろオバマ大統領の上げたこぶしの持って行き方にシフトしています。ケリー国務長官も酷使されて「ほかに玉はいないのか」と思わず、呟きたくなります。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年3月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。