同性婚の公認問題では、頑固にその信念を守って拒否してきたメルケル独首相が26日夜、ベルリンで開かれた雑誌 Brigitte 主催の討論会の席で、「全てのための婚姻(同性婚問題)は非常にデリケートな問題だ。各自の良心が問われるテーマだから、党も議員を縛ることなく、各自が判断すべきだ」と発言した。早い話、同性婚を拒否してきた与党「キリスト教民主同盟」(CDU)は党としてはもはや反対しない。各議員が自主的に判断すべきだというのだ。
独週刊誌シュピーゲル(電子版)はメルケル首相の同性婚への急展開を速報で流した。ドイツで9月24日、連邦議会(下院)選挙が実施されるが、同性婚公認問題は大きな争点となっているからだ。
CDUと連立を組む社民党(SPD)は今月25日、ドルトムントで開催された党大会で選挙公約をまとめたが、中低所得者への減税などの税改革や失業手当の充実などのほか、同性婚の公認を挙げている。その直後、メルケル首相は同性婚公認の方向を示唆したのだ。
4選を狙うメルケル首相の今回の発言は、SPDが公約として掲げる同性婚問題を選挙争点から外す狙いがあったはずだ。その一方、同性婚問題は連邦議会選後にゆっくりと審議をすればいいと考えていたはずだ。それに対し、SPDは「今週中に同性婚関連法案を採決したい」と言い出したのだ。実際、CDUが支持しなくても、連邦議会では「緑の党」、「左翼党」、「自由民主党」(FDP)が支持しているから、議会で採決の見通しはほぼ確実だった。しかし、SPDが同性婚の是非を問う採決を控えてきたのは、CDU・「キリスト教社会同盟」(CSU)との連立政権協定で、同性婚についてはこの任期中は採択しないことで合意していたからだ。メルケル首相が同性婚を認める方向に動き出した以上、SPDもこの機会を逃すことはできない。そこでSPD、緑の党、左翼党からの動議を受け、議会法律委員会は28日、夏季休暇に入る最後の議会開催日(6月30日)、連邦議会で同性婚関連法案を採決することを決定したばかりだ。
欧州では1989年、デンマークが「登録パートナーシップ法」を初めて採択し、他の北欧諸国もその流れて従った。そして2001年、オランダが同性婚を導入したことから、同性婚法、登録パートナーシップ法、そしてパートナーシップ法の3様の関連法が出揃ったわけだ。ちなみに、ローマ・カトリック国のフランスで2013年5月、同性婚を認め、ローマ・カトリック教会の総本山バチカンのあるイタリアも同性婚を認めたばかりだ。
ドイツではこれまで社民党と緑の党の連立政権時代の2001年に採決された「登録パートナーシップ」が施行中で、養子権は認められていない。ドイツ民法1353条では、「婚姻は男と女の一夫一婦制の生活共同体」と定義し、婚姻の権利と義務が記述されている。同性婚が公認されればその修正が必要となる。
シュピーゲルはメルケル首相の同性婚公認とも思える発言を、「純粋な選挙戦略に過ぎない」と冷静に受け取り、「メルケル首相は党内の保守派議員の強い抵抗に直面するだろう」と予想している。
なお、ドイツ政党の中で政党として同性婚に反対しているのは野党の右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の1党だけとなる。同党はメルケル首相の軌道修正を歓迎し、「わが党が唯一、保守的世界観を維持している」として、選挙で伝統的な保守派有権者の支持を期待している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。