実は、僕は2008年に、『アップルとグーグル』のP156にて、トヨタとGoogleが組む可能性について触れています。これが2010年の今年、急速に現実味を帯びてきました。
2010年5月21日にGoogleとソニーの提携と、トヨタとEVメーカーのテスラの提携が同時に発表されたことも、今から考えると両社の戦略的な”握り”を暗に示しているのではないかとちょっと勘ぐり始めています。
Googleは、PC、モバイル、テレビ、自動車の4つの市場への侵攻を目論んでいます。これはAndroidの開発責任者であるアンディ・ルービンが公式に話していることであり、Googleは社内の計画や目的を不用意に口にしていい企業ではないので、これは社内で公然と認知された戦略目標であると言っていいでしょう。
カッサンドラになることを恐れずに予言するならば、年内にGoogleとトヨタが提携を発表することは十分あり得ます。Googleの相手が日産やホンダになる可能性はなくはありませんし、VWあたりと先に組むことも考えられますが、それ自体は予言に対してはあまり問題ではなく、とにかくGoogleが自動車業界への進撃ラッパを高らかに鳴らす、という意味と思ってください。
Googleが4つの市場のうち、PC、モバイル、テレビの3つにおいてはAppleと激しく競合していますが、4つめの自動車については、Appleという会社が自分でハードとソフトを両方作る企業であることから、AppleがすぐにiOS搭載のEV事業に参入しない限り、当面はGoogleの戦略を阻む企業はない、と言えるかもしれません。
自動車業界に対するGoogleの野心は、いまのところ表立ったものとしては、最近Google Mapsを基本データシステムとして採用したカーナビが登場したように、地図・位置情報を介しての動きがあるくらいです。(拙書『アップルとグーグル』(2008年刊。インプレスR&D)P179参照)
しかし、僕は年内にGoogleがその野心を大きく面に現すと考えています。
自動車はいまやCPUの固まりです。動くコンピューターといっていい存在です。近いうちに、すべてのクルマにIPがふられることになるでしょう。
コンピューターならクラウド化する。それがGoogleの描く未来であり戦略ですから、当然ほっておけるはずがありません。
GoogleはGoogle Mapsやストリートビューによって、クルマにとって必要な交通データを完全に手中に収めています。同時に、トヨタを始めとする、世界のトップ自動車メーカーは、販売したクルマのCPUを解析することによって、運転者の心模様がどのようにクルマの操作に反映され、他のクルマの流れの中でどういう動きをしているのかなどの詳細データを持っています。これらのデータが集積され、合一されてさらに解析されることによって、交通システム全体を制御するプラットフォームがクラウド化されます。
つまり、やがては電車や船、飛行機までを包含する、すべてのモビリティ・マネジメントがクラウド化されることになり、そのプラットフォームがGoogleになる、という可能性を僕は指摘しておきます。
ただし、Googleと組むということは、各メーカーにとっては相当リスキーです。
コンピューター以外のハードウェアは、家電であっても自動車であっても、魂(ソウル)と肉体(ボディ)が同一化されており不可分であったのが、いまやすべてのハードウェアはコンピューター化が進んでおり、魂と肉体の分化が進み始めています。Googleと組むということは魂をGoogleに委ねることに他なりません。精神を乗っ取られてカラダは同じでも別人になってしまう、「ボディスナッチャー」という映画がありましたが、同じようにGoogleと組んだ瞬間にすべての自社製品が同じようにならないとは限りません。
Appleはこれを嫌います。自分で魂と肉体をコントロールすることを望むわけです。
HP(ヒューレッド・パッカード)もパームを買収することで、これを拒びます。ソニーがGoogleの軍門に下ってしまったこととは大きな違いです。
そう、ソニーの未来を僕は本気で案じています。
テレビを始めとするAV機器の”OS”がGoogleのAndroid(そのうちにはChrome OSに・・)にコントロールされてしまえば、あとはデザイン、価格の勝負になります。PCがいい例です。PCはWindowsに支配されてしまって以来、それぞれのメーカーがこぞって他社にない独自の仕様に基づく不要な機能(=物理的な機能。指紋認証やカメラやなど)を加えるようになり、結果的にいたずらにゴテゴテとした不細工な機器が乱立してしまいました。
手に取るように未来が見えます、韓国や中国メーカーはデザイン性と低価格を売りにしたネット家電、ネットTVを量産し、日本メーカーはプラスワンを持った高級機に活路を求めようとして、結果として失敗するでしょう。
少し脱線しますが、僕たちはファストマーケティングというコンセプトを提唱しています。
トレンドに即したキャッチーな技術とデザインを適宜取り入れ、製品を市場にリリースする速度を早めて、在庫を調整しつつ利益を生み出していく手法です。もちろんファストファッションから抽出して範囲を広げた考え方です。特にIT技術とソーシャルテクノロジーの存在を意識したコンセプトになっています。
だからファストマーケティングでは、よい技術者とよいデザイナーの存在が不可欠です。どちらが欠けても成立しません。
この観点でいえば、韓国のサムスンなどはあきらかにファストマーケティング企業といっていいでしょう。
サムスンは日本から優秀な金型職人を集め、世界中から集めた有能なデザイナーの設計を具体化するノウハウを身につけました。金型とは製品の形を作る上で必要なモデリング技術の基礎の基礎であり、これがないといくら巧みなデザインであっても実際にそれを作ることが出来ません。
ソニーだけでなく、日本の家電メーカーは今後、安くてカッコいい製品を世界中に売っていくという、ファストマーケティングを行っていくことができるでしょうか。できないのであれば、Googleとの提携は凶とでるでしょう。
ところがクルマであれば話は別になります。
クルマはハードウェア自体が実際に”動く”ので、ソフトウェアで全てを制御するとはいっても、モノとしての存在感がPCや家電とは大きく異なるからです。だから当分は実際にハードを作っているメーカーの存在意義は大きいと言えます。
クルマはハードウェア自体が実際に”動く”ので、ソフトウェアで全てを制御するとはいっても、モノとしての存在感がPCや家電とは大きく異なるからです。だから当分は実際にハードを作っているメーカーの存在意義は大きいと言えます。
それに、自動車業界はいま、ガソリンやディーゼル燃料のエンジン(内燃機関)から電気モーターによる電気自動車(EV=Electric Vehcle)もしくは燃料電池自動車(FCV=Fuel Cell Vehcle)などの非内燃機関をベースとした自動車へと大きくシフトしつつありますが、PCや家電に比べれば一気に変革が進むわけではありません。
エンジンからモーターへの完全なシフトには、少なくとも10-20年を要するでしょう。トヨタはその過渡期にハイブリッドカー(HV)で君臨しているメーカーです。つまり次世代自動車業界でも王者であり続けるチャンスがあります。だから、Googleと早く組めば、それだけ他の自動車メーカーとの競争に優位に立てるはずです。
自動車業界も、テスラ・モーターズのような新鋭企業が登場していますが、大量生産をしていくためには大資本が必要であり、(テスラがトヨタとの提携に踏み切ったように)イチから世界企業になることは難しい。EVは技術的に家電と同じだから(逆に言えば自動車が家電化していく)、トヨタやVWのような自動車メーカーに挑戦するのは、サムスンのような家電メーカーかもしれません。
しかしそれでも、新規参入者によって数十年後には市場シェアの占有者の顔ぶれが変わるとしても、トヨタやVWらが早く取り組みさえすれば彼らの優位は変わらないはずです。
(もちろん、クルマを運転するという行為がなくなり、電車のように完全に自動制御になってしまうまでの話です。そうなってしまえば自動車もまた ファストマーケティング企業によって席巻され、先行者メリットはどんどんなくなってしまうことでしょう)
自動車業界も、テスラ・モーターズのような新鋭企業が登場していますが、大量生産をしていくためには大資本が必要であり、(テスラがトヨタとの提携に踏み切ったように)イチから世界企業になることは難しい。EVは技術的に家電と同じだから(逆に言えば自動車が家電化していく)、トヨタやVWのような自動車メーカーに挑戦するのは、サムスンのような家電メーカーかもしれません。
しかしそれでも、新規参入者によって数十年後には市場シェアの占有者の顔ぶれが変わるとしても、トヨタやVWらが早く取り組みさえすれば彼らの優位は変わらないはずです。
(もちろん、クルマを運転するという行為がなくなり、電車のように完全に自動制御になってしまうまでの話です。そうなってしまえば自動車もまた ファストマーケティング企業によって席巻され、先行者メリットはどんどんなくなってしまうことでしょう)
?
いずれにしても、日本経済の牽引車として重要な役割を果たしてもらうためにも、トヨタには早くGoogleと組んでもらいたい。
そう考えています。
そう考えています。