問題は通信インフラではなくイノベーションである

池田 信夫

「光の道」作業部会ではNTTの再編についての議論も行なわれているが、これは25年以上にわたってもめてきた問題で、あと2ヶ月で結論が出るとは思えない。おまけにソフトバンクがこれを光ファイバーとからめたことで、問題はさらにややこしくなった。残念ながら、この作業部会はアジェンダの立て方が間違っているといわざるをえない。


以前、慶応で行なわれたシンポジウムでNTT再編の議論をしたとき、フロアにいた内海善雄氏(元ITU事務総局長)が「こういうインフラの話は順序が逆だ。ジュネーブから見ていると、日本経済がまったく成長していないのは異常だ。それをどうするかという問題から考えなきゃだめだ」と質問したのが印象的だった。十年一日のインフラ談義にうんざりしていた私も「おっしゃる通りで、まずイノベーションをどう高めるかを考えたほうがいい」と賛成した。

通信の世界で最大の問題は、NTTの接続問題でも光ファイバーの普及でもなく、日本の通信サービスが世界から孤立し、ビジネスも技術も「ガラパゴス化」していることだ。電話の時代は、通信はドメスティックな規制産業だったのでそれでもよかったが、インターネットの普及によって通信もコンピュータのようにグローバルに統合された。かつてコンピュータ業界は、この流れをよそにPC-9800のようなガラパゴス規格に特化して世界市場を失った。同じ間違いを通信業界も繰り返そうとしている。

この点で、NTT再編より700MHz帯のほうがはるかに重要だ。これについては、KDDIとソフトバンクが国際周波数を求めているのに対して、NTTドコモなどが電波鎖国を求めている。「LTEの周波数は欧米では統一されておらず、デュアルモードにすれば対応できる。すでに700/900MHzペアで無線チップの開発が進んでいるので、今から周波数を変更すると、既存の免許人の移行に時間がかかってサービス開始が遅れる」というのがドコモの意見だ。

しかしこれには疑問がある。移行の対象となるITSはまだ割り当てられておらず、FPUはほとんど使われていない。問題は900MHzのMCAだが、これは携帯キャリアがサービスを肩代わりできる。「移行の始まる2012年7月までには対応できる」というのが、国際周波数を推進するキャリアの話である。さらに重要なのは、海部美知氏も指摘する次の問題だ:

こういった保護主義政策は国内メーカーの競争力をますます失わせることになり、長期的には害となりかねない。LTEは多くの周波数に対応できるよう規定されており、デュアルバンドのチップを作って異なる周波数に対応することはもちろん可能だが、全世界のわずか3%しか加入者のいない日本に、例えばアップルが迅速に対応モデルを作ってくれるかどうかは大いに疑問だ。

日本のICT業界は壊滅寸前で、かろうじて国内市場でガラパゴス的に生き延びてきた無線サービスも端末も、このままでは次世代には壊滅するリスクが大きい。大事なのは、グローバルに通用するイノベーションによって世界市場(特に新興国)に打って出ることだ。ここで鎖国すると一時的には延命できるが、最終的にはコメ農家のようになる。

これは一刻を争う問題である。それに対してFTTHの普及やNTT再編などは過剰設備になった固定回線の問題で、先送りしても大した害はない。通信といえば固定インフラの規制ばかり論じる習慣を改め、アナログ放送の止まる2011年7月を機に電波を全面的に再編する「電波ビッグバン」を行なう作業部会をつくり、電波開放を集中的に検討すべきだ。