やさしい「財政ファイナンス」の話(補足)

池尾 和人

中央銀行による国債購入の効果を論じた先の記事のコメント欄に「日銀がケチャップやREITを買ったら図2はどうなるのですか。」という質問があった。コメント欄で簡単に答えておいたけれども、日本銀行は、ケチャップを買う予定はまだないようだが、不動産投資信託(REIT)は買おうとしているようなので、この種の疑問はある意味ではきわめて重要である。それに対する解答は、多く人達に正しく理解しておいてほしいことなので、改めて正確に説明しておきたい。


先の記事の図2の状態から、中央銀行が国債以外の財・サービス(例えば、ケチャップ)あるいは資産(REITなど)を民間から買い上げると、正確には次の図4Bのような状態になる。


この場合にも、財政赤字を中央銀行の国債引き受けでまかなった場合(先の記事の図4)と同様に、民間の保有資源が(政府ないしは中央銀行に移転して)青色で塗りつぶした分だけさらに少なくなる一方で貨幣供給量が増加するので、ゼロ金利制約に直面していても緩和的(inflationary)な効果があると見込まれる。

他方、先の記事でも述べたように中央銀行は政府の子会社のようなものなので、親会社である政府と連結したバランスシートを考えてみると、図4の場合も、図4Bの場合も、全く同一でであって、次の図5のようになる。


統合政府(政府+中央銀行)のバランスシートに同じ効果をおよぼすという意味で、REITを買うといった信用緩和(まして日銀がお札を刷って給付金として配るというの)は、その本質的において「財政政策」だと考えることができる。

ふつう、子会社のトップ(中銀総裁)がグループ企業全体に影響を与えるような意思決定を勝手にやっていいはずはない。グループ企業全体に影響を与えるような意思決定(財政政策)の権限をもっているのは、親会社のトップ(総理大臣ないしは財務大臣)である。この当然の話から、日本銀行にケチャップを買ったり、給付金を配ったりする権限は与えられていない。REITや上場投資信託(ETF)を買うときも、財務大臣および総理大臣の認可を必要とする(日本銀行法第43条)。

親会社のトップをさしおいて子会社のトップが全社的な意思決定をすべきだ、そうしないのは職務怠慢だ、といわんがばかりの主張が一部にみられるが、それらは、上で説明したような権限構造に対する全くの無理解からたぶん生じているのであろう。文句があったら、権限のない子会社のトップに言ってもらちはあかないから、親会社のトップに言おう。