著者:水野和夫・萱野稔人
集英社(2010-11-17)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆
日本がどうやったら長期停滞から脱却できるかというのは大きな問題だが、水野和夫氏は脱却できないという。その根拠はある種の長期波動説で、利子率(=利潤率)の動きによって資本主義の覇権の移動をみて、アメリカは1980年ごろにピークを終えたとする。日本の金利のピークも1974年の11.7%で、そのころが経済力もピークだった。現在の1%前後という長期金利は、日本経済にエネルギーがなくなったことを示している。
こうした覇権国では、初期には製造業の生産が拡大し、そのあと賃金が上昇して競争力がなくなり、金融経済化して衰退し、覇権が他の国に移るというサイクルを繰り返す。このサイクルでいうと、アメリカの金融危機は、その最後の金融経済化の局面が派手に終わったことを示しており、日本は銀行の能力が低いため、金融経済化の段階を通らずに衰退局面に入ってしまったということになる。
資本主義は、つねに差異から利益を上げるシステムだから、その水位差の大きい貿易を支配した国がヘゲモニーを握る。イギリスの覇権も、植民地から吸い上げた資本を国内に投資したことによるもので、その逆ではない。アメリカも1980年代以降に急速な金融経済化を遂げて、2001年には全産業の営業利益の49%を金融業が上げるようになったが、その実態もサブプライム・ローンのような詐欺的な証券による搾取だった。
日本のデフレも、世界経済の覇権が新興国に移る中で起きたものだ。特に原油価格が石油危機前の1バレル=3ドルから現在の100ドルまで上がり、原材料費の値上がりがGDPを下げ、デフレ圧力になっている。今後は世界の覇権は中国など新興国に移り、人民元が自由化されれば資本も中国に集中し、日本からは資本が流出して円安と金利上昇とインフレが起こり、財政も悪化して、日本の衰退はさらに加速する・・・
スケールの大きな話でおもしろいが、700年の歴史を俯瞰しているので荒っぽい。たとえば1970年代に名目金利が各国で10%を超したのはインフレが原因であり、実質金利でみると70年代がピークにはなっていない。また日本が低成長を脱却する政策として、萱野稔人氏が「環境規制を強化して技術開発を促進する」というのはいただけない。環境技術が開発されても、規制強化で成長率は下がる。「環境にやさしい技術で成長する」などというのは、自称エコロジストの幻想である。