外国人旅行者増よりも国際観光赤字の早期解消を

原 悟克

2010年の外国人旅行者が前年比26%増の861万人まで増え、当初の目標であった1,000万人には届かなかったものの、観光庁をはじめとして、2003年以来実施している「ビジット・ジャパン・キャンペーン」における国内外での観光客招致活動を評価する声も聞かれる。しかし、この結果を額面どおり評価して良いのだろうか。


(資料出所:平成22年度観光白書)

たしかに、観光客数の変化をグラフで見ると、平成15年(2003年)からはグラフの上昇角度が上がっており、自然増だと平成22年時点ではおよそ650万人程度だったと予測されるところを、政府のキャンペーンで200万人の招致に成功したという解釈も成り立つ。しかし、7年間で200万人ということは、年間約30万人しか純増できておらず、年間7,800万人の旅行者を受け入れるフランス等と比較すると議論のベースとなるケタが違っており、「観光立国」としては少々心細い数字と言わざるを得ない。また、年間旅行者受入れ861万人、国際観光収入108億米ドルはともに世界で28位という低順位であり、さしたる観光資源を持たないメキシコ、ロシア、クロアチアにすら後塵を拝している。当然、日本は極東の島国であり、国際旅行の意欲が旺盛な先進国と呼べる周辺国は、韓国と香港ぐらいしか存在しないという地政学的なハンディはあるが、それならば同じ理由で有利とは言えないアメリカ(1位)やオーストラリア(8位)が上位であることの説明がつかない。

観光白書を見ていて感じるのは、観光庁はやはり国土交通省の外局なのだということ。国土交通省はもともと、運輸・旅客・不動産などの社会インフラを安全かつ効率良く国土に行き渡らせるよう整備や規制をおこなう「御用官庁」であり、マーケティングをする官庁ではない。国交省から観光庁に出向している公務員も、本来得意ではないことをやらされて四苦八苦しているのだろう。観光白書においても宿泊施設や交通などのハード面に重点が置かれた施策の提案が多く、文化財(文科省、文化庁)、観光産業(経産省)や休日(厚労省)については、縦割り相互不可侵で、申し訳程度にしか触れていない。

国内の旅行消費(日本人と外国人を含む)がもたらす経済効果は年間26.5兆円(GDP比5.3%)、関連産業まで含めた雇用誘発効果は430万人(全就業者の6.7%)と推計されており、経済効果だけを見れば農業の4.4兆円(GDP比1.5%)よりはるかに重要なのだから、いっそのこと観光庁を省に格上げし、観光に関連する法や制度は各省庁の権限にかかる部分も横断して決定できるようにしてはどうだろうか。

ところで、議論の根本に立ち返り、なぜ日本は外国人観光客を積極的に招致しているか考えると、国内の富を増やす(減らさない)ために他ならない。つまり、観光を経済効果だけで見た場合には、貿易収支と同様に「観光収支」で見た場合の収支を改善することが最大の目的であるはずなのだ。

(資料出所:平成22年度観光白書)

日本は世界第7位の国際旅行支出国であり、日本人は年間279億米ドル(≒2兆5千億円)を世界中の観光地で消費するが、外国人は日本で108億米ドル(≒9,720億円)しか消費しない。結果として日本は世界第3位の貿易赤字国であり、毎年世界中に外貨として171億米ドル(≒1兆5千億円)の現金をばらまいていることになる。日本の家庭の家計消費に占める観光のための支出は約7.2%(約21兆円)であり、内訳は国内旅行5.3%、国外旅行1.9%となっている。仮に国外旅行のシェアを0.5ポイント程度国内旅行に「移動」できれば、少なくとも観光赤字の問題は簡単に解決する。そのためには、混雑して疲れ果てるためだけに行く国内観光地のイメージを払拭し、日本人にとっても魅力的な日本の観光資源づくりが重要だ。この点でもやはり、休暇の分散や観光産業の再整備は必須であり、横断的権限を持った官庁の整備が望ましい。

日本では、いまだに英語・韓国語・北京語で観光案内ができるインフォメーションデスクや案内板が十分に整備されておらず、地図を見ながらウロウロと戸惑う外国人の姿を見るたびに、筆者はこの国が「外国人にとっての」観光立国になることは難しいのではないかという確信を深めている。ほぼ単一民族で外国語が苦手という日本人の特性からも、外国人旅行者に対する一般市民のホスピタリティが決定的に欠如している。これらの点は、フランス観光庁(OBでもよい)あたりから数人アドバイザーを迎えて改善にあたれば、ごく短期間で解決する問題のはずだが、やる気がないのか発想がないのか、行き当たりばったりの整備をしているようにしか見えない。

現在のところ外国人旅行者数だけに目を奪われがちな日本の観光政策だが、複合的な手段を用いて、早期に観光赤字ゼロを目指すことが最も国益に資するのは間違いない。そして、観光庁に勤務する諸氏には、ガイドつきの視察などではなく、是非1人で、プランを決めずに世界の観光地を巡ってみてほしい。それが世界標準の旅行スタイルだと彼らが気づいたとき、日本の観光もようやく夜明けを迎える。