政治の液状化は政界再編のチャンスを広げている

大西 宏

多くの国民は現在の国会に対して、もうかなり嫌気がさしてきていると思います。民主党政権が中心軸を失い、漂流し始めたことで、野党が勢いづき、与党への攻撃を強めていますが、なにか体質の古さを感じてしまいます。背後で、改革を好まない人びとの高笑いが聞こえてくるようにも感じます。


競争が健全な状況であれば、互いに消費者により高い価値を提供することを競いあうメカニズムが働きますが、競争そのものを目的にしてしまった場合、血で血を洗う競争となり、いずれもが目先の小さな差別化と価格競争を加速させ、やがて市場そのものが荒廃してしまいます。

なぜ、そのような不毛な競争が起こるのかですが、それぞれのブランド間に戦略の違いが小さく、大きな差異が生まれてこないからです。いわゆる同質化競争です。

ライバルばかり見て、市場のシェアを死守しよう、たとえ1%でもシェアを奪おうとするために、目先の小さな差別化にとらわれ、そこにエネルギーが注ぎ込まれてしまい、消費者にとっての価値を高めるための大きなイノベーションができなくなる悪循環が起こってしまうからです。

実際、現在の既成政党でなにが大きく違うかはよくわかりません。バラマキかそうでないかとか、対応のまずさとか、政権担当能力を批判しあっているぐらいでしょうか。

バラマキの典型とされている子ども手当にしても、では少子化に歯止めをかける鮮度の高い政策を野党が提示しているかというとそうではありません。あくまで児童手当に戻せという改善策です。

与党は、マニフェストで従来の政治との違いを訴え政権交代を実現しましたが、政権を取ってみると、財源、官僚、既得権益の壁を打ち破れず、しかも戦略修正というよりは、妥協によって戦略を見失い、独自性を失ってきているように見受けられます。
それが国民の支持率を押し下げる結果となっています。さまざまなネットで行われているアンケートを見る限り「政治とカネ」が支持率低下の大きな原因とは思えません。支持率を押し下げているのは、民主党では日本は変わらないという失望感でしょう。

一方の野党も、与党への批判はあっても、どのような国づくりを目指し、現実にはなにを改革すべきだという主張、日本をどう変えていくというビジョンは聞こえてきません。

自民党の人たちのブログを見ても、その多くは、民主党政権は間違っている、だらしない、自民党のやってきたことが正しかったという域を超えた議論はほとんど感じることができないという印象を受けます。ライバルを意識しすぎなのです。

本来なら、長期的には高齢化によって起こる福祉費の増加にどう対処するのか、働く現役人口が減少してくる日本社会をどうするのか、このまま官僚主権の中央集権を維持するのか、あるいは地方主権化を加速させるのか、韓国とは大きく立ち遅れた自由貿易協定(FTP)や自由経済協定(EPA)にどう取り組むのか、また日本の競争力を高めるためにどのような規制の中味、また制度の見直しを行うのかなど争点は多く、骨太の議論をしかけ、戦略の違いを際立たせる絶好のチャンスが巡ってきているにもかかわらず、その戦略差が見えてきません。なにに争点を当てるか、つまり選択と集中も戦略差になってくるはずですが、その機会への挑戦も感じられません。

しかも政治が非常に危ない状況になってきているように感じるのは、小さな不祥事に次第に焦点があたり泥仕合の様相を呈してきましたが、リークでなにかを暴くことで政治が動きはじめていることです。政治が小さな国民の期待とは関係ないところで動き、しかも、国民とは関係のない一部の勢力によって大きく左右される状況になりつつあるということです。これは政権交代しても、同じことが起こることを予感させます。

それぞれの政党の支持率が低く、つまりマーケティングで言うブランドロイヤリティがいずれの政党も低く、浮動層が多く、しかも増加してきている状況を冷静に見れば、既成政党の賞味期限は過ぎており、既存政党とは異なる政党が台頭する条件は整ってきています。

その期待への高まりのなかで、一時は「みんなの党」への期待が高まりかけたのですが、現実に起こっている地方からの反乱と連携する求心力がなく、今ひとつ存在感が高まってきません。

そういった状況のなかで、国会も、政治そのものも液状化してきています。内閣はもはや機能しない状態にまで追いつめられ、野党は民主党政権への批判票を吸収する絶好の好機が訪れたことで攻勢を強めていますが、たとえ、総選挙で大勝しても、国の姿を大きく変える政策を示し、実行できなければ、再び破綻し液状化を繰り返すリスクが極めて高いと感じます。

本来なら、どの政党に属したほうが選挙に有利かではなく、どのような国づくりを行うかの違いによって、政界が再編される動きがでてきてもいい状況ですが、残念ながら、リーダーと成り得る人たちも様子を伺うだけで具体的な動きが鈍い状態です。

現在の状況は、内閣総辞職を行い、どうこの混乱を打開するか、またどのような政策を行うかで国民の審判を仰ぐ以外には打開策はないと思いますが、内閣総辞職、解散となれば政界再編への動きがでてくるのでしょうか。

解散があってもなくとも、地方選が、今後を占う大きな分岐点となってくると思います。名古屋、大阪などの議会が選挙でどうなるか、地方議会の選挙は中選挙区制度であり、ドラスティックな変化は起こりにくいとされていますが、それでも変化が起こったときに、政界再編にむかって手を挙げる人がでてくるのではないでしょうか。

政治にお願いしたいのは、政党ではなく、もはや国民の多数ではない支持組織でもなく、本物の国民第一主義にたって、時代変化にしなやかに対応できる国の姿、課題に手垢のついていない政策を打ち出すことにもっと集中して欲しいところです。

また将来を担うリーダーとなることを目指している人びとは、政党間の駆け引きでなく、またしがらみを捨てて、エッジの効いたビジョンを掲げ、思い切った行動にでられることを期待します。政界再編の主導権は、もうそろそろ次の世代が握るべきです。

コメント

  1. DydoCorzine より:

    前回の衆院選で民主党に投じた方々は現政権に文句を言えないのではないのではと思います。

    皆一様に「自民よりまし」を口にしていましたが、過去政権を担った
    事のない政党に「まし」の根拠は当然ありません。

    その意味では「四年間のお試し期間」を選択したも同然です。私から見ると唯一説得力を持つ物は小沢一郎の存在でしたが、党首選で菅直人を選んだ時点で先は見えていました。

    国民の悲劇はすべてにおいて日本が瀕死の危機を叫ばれるさなかに「お試し期間」を選んでしまった事です。

    その意味ではどうしても私は選挙制度の問題に行き着かざるを得ないのですが、小選挙区比例代表並立制もお試し期間は既に終わったのではないでしょうか。

    二大政党制になるはずが、結局第三党のキャスティングボート次第になる現状(衆参それは同じですが)は成功とは言えず、そもそも「政党を選ぶ政治」のはずが個人に投票しているのもおかしな話で、私は死に票も少なく欧州で主流の完全比例制がベストと考えます。

    話を戻しますが、今回はおそらく地方統一選終了後に民主は公明党に協力を仰ぎ、参院も可決をみる筋書きで決着すると見ますが、解散は絶対にしない。

    今後、維新の会が主流になると思えませんし、飛躍するようですが国民のメディアリテラシーが低い限りマスコミに振り回されているだけで良い意味での流動化は起こらないと見ます。