震災後の人口減少をどう乗り越えるか

木谷 哲夫

私は生まれも育ちも神戸である。平成7年の阪神淡路大震災直後、実家への救援物資をかついで神戸入りした。

当時は関東大震災以来の大災害とされた阪神淡路大震災も、マグニチュードは7.3であり、今回と比べると小さい。しかし人口密集地域での直下型であったので狭い範囲に被害が集中、死者は6千人を超え、特に神戸の被害は甚大だった。

皆の無事を確認したのち、思い出深いご近所の景色が一変したのを眺め、呆然とした。震災後も1年に2回、ほぼ規則正しく盆と正月には神戸に帰省し、個人的に「定点観測」を行ってきた。

その定点観測の結論を先に言うと、阪神大震災の場合、人口の減少が復興への最大のボトルネックとなったと考えている。おそらく今回の大震災でも同じ、もしくは人口減少の度合いは神戸よりさらにシビアな可能性もある。

神戸は、災害後の人口減少で経済に何が起こるのか、我々に示してくれている。この経験から学ぶことが重要だ。


神戸での復興の経過を簡単に書くと、まず倒壊した高速道路、破損した線路、水道や電気、ガスなどのライフライン、ダイエーやコンビニなどの店舗営業は比較的早く復旧。半年から1年間くらいで、普通に生活していくうえでの不便はほぼ解消した。

オフイス地帯や商業地域などは、めざましい速度で復興し、2年後には三宮などの繁華街を歩いていてもほとんど震災の爪痕を感じることはなくなった。

一般の住宅地でも、西は若干遅れたが、芦屋や西宮とともに大阪の通勤圏に属する灘区や東灘区は3-4年をかけて、屋根を青シートで覆われた家などは姿を消し、見違えるほど立派なマンションが立ち並んで行った。

そうした経過を見ると、一見急ピッチで順調に復興したように見える。しかし、私の見るところ、街の賑わいはなかなか戻らなかった。

実は、神戸市の人口は震災当時の152万人から、瞬間的に20万人ほど大幅に減少し、その後かなりの間10万人程度減少した140万人台前半で推移していたのだ。

震災前の人口を回復するまでになんと10年かかった。しかもその時点では、すでに超高齢化が進行していた。

目に見える復興は速かったが、震災の結果神戸は衰退した。震災後の人口減少で消費が縮小し、域内産業にダメージを与えたからだ。

人口減少は、倒壊した建物のように目で見ることはできないが、着実に経済を弱体化させる。建物倒壊が骨折だとすれば、人口減少は糖尿病や高血圧のようなもので、放っておくと命にかかわるのだが、ひそかに進行し、痛みを感じることはない。

神戸では、震災により人口が大きく減少、購買力が低下し域内需要が長期間にわたって縮小、地元の消費に依存し競争力のあった第三次産業が縮退し、回復が遅れた。

具体的に言うと、川重や神戸製鋼など大手製造業・輸出産業はおおむね早期に復興した。5兆円を超える復興資金は県や市ではどうしようもなく、国費が積極的に投入され、活発な公共工事により雇用は復活した。

しかし、長期にわたる人口減により、震災前55%を占めていた第三次産業において、持続的な域内産業は回復しなかった。現在は「医療産業都市」と称しているが、要は病気の老人が多いだけのことである。

神戸は震災後の人口減で、「トレンドを発信するファッショナブルな街」から、「普通の地方都市」になったのだ。

今回の大震災では、阪神のときよりもはるかに大量の公共工事が必要となるだろう。しかし、工事はいずれ終わる。持続的な繁栄の方法は地方が主体的に考えることが必要だ。

供給力は、女性の労働力化、ロボットなどの設備投資、生産性の向上などで人口減をカバーすることにより維持できる。しかし消費は「ヒト」の頭数が無いと話にならない。

子供が一人いれば、祖父母を含め6人の大人が気前よく消費を拡大する効果が見込め、子供の需要創出上の「乗数効果」は非常に大きい。

域内需要を減退させないためには、合計特殊出生率をどう引き上げるか、働く母親が育てやすいよう育児サポートをどうするか、域外からの若年定住者をどう呼び込むか、観光客をどう呼ぶか、といった多面的に購買力を創出するための経営努力が必要になる。

合計特殊出生率は全国平均では22年で1.37と、人口を維持できる水準とされる2.07を大幅に下回っている。出生率は地域差が非常に大きく、これまで東北は実はそれほど低くなかった。

しかし、阪神の時よりも進行している高齢化、沿岸部分の丸ごと喪失による一時避難の長期化や原発のマイナスイメージで、人口減少は阪神大震災のときよりもシビアになり、時間的にもより長期にわたって継続するのではないか。この点、データで分析していないので断定はできないが、人口動態の予測が必要になるだろう。

道路や港湾などのハード面の復興は大きく国に依存せざるを得ない。しかし、国による施策は供給サイドに偏りがちであり、域内需要の創出には向かわない。下手をするとかつての「北海道開発庁」のごとき役所ができて、供給力重視、人口の停滞が長期化する危険すらある。

人口減少を防ぐことができるのは、現地の実情に通じきめ細かく地味な施策を打てる地方自治体だ。

東北の地方自治体は、国と役割分担を明確にし、長期的な地域の繁栄のために、具体的な「人口減少阻止戦略」を立てて実行していくことが必要だ。

それでも難しいときには、仙台に国会と中央官庁を移転する、くらいのことが必要になると思う。

参考資料

統計でみるこうべ No.43 震災と人口推計 ~神戸市の経験から~
http://www.city.kobe.lg.jp/information/data/statistics/toukei/toukeidemiru/data/miru43.pdf
額賀信著「観光革命」
福島県 調査 人口減少および少子高齢化が県内経済に及ぼす影響について
http://fkeizai.in.arena.ne.jp/pdf/cyousa/cyousa_2006_05_1.pdf

木谷哲夫 アゴラ執筆メンバー
ブログ http://blog.livedoor.jp/tetsuo_kitani/

コメント

  1. greetree より:

     話は逆じゃないですか? 人口が減ったから衰退したんじゃなくて、衰退したから人口が減ったんじゃないですか? 

     そもそも、1997年以来、日本の経済はどんどん悪化しています。
     → http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3080.html
     → http://nando.up.seesaa.net/docs/gdptable.htm

     他の都市(日本全体)だって悪化しているのに、神戸だけが悪化しないでいられる理由はないと思えますが。

  2. a_inoue より:

     木谷さんのおっしゃっていることは、過疎地の人口減少問題と同じことであって、単なる地域エゴ以上でも以下でもありません。
     人口が被災地から他所に移動するだけなら、被災地が衰退しても、他の地域がその分だけ繁栄するんだから、どうでもいいじゃないかと思います。

  3. kotodama137 より:

    都市計画がうまくいけば、人口もふえる。都市の再建には、経済性を考えるべきではないと思う。政府の言うとおりにすれば、皆同じ家にされてしまう。文化や伝統まで消されてしまう。見習うべきは第二次大戦後のヨーロッパの都市の再建である。風景まで取り込んだ都市づくりをするべきかと。あとはくみちょうさんしだい。

  4. ta_shim より:

    日本全体として人口減に向かうことは分かっているので、

    東北で人口回復を図りたいならば
    住むことに魅力があり、メリットがある地域を目指すしかない。

    いっそ「一国二制度」や「道州制」を政府が採用して、
    独自法を自由に制定できる「東北特別区」でも作ってはどうかと思う。

    現在の日本のシステムの欠点が多々指摘されているのだから、実験的に特別区では多様な法制・税制・行政を試してみる。
    日本中から移住や本社移転を促進する。
    成功体験があれば、日本の他の地域にもフィードバックが起こり、結果的には日本全体に活気が出て、若返りのきっかけになるかもしれない。

  5. DydoCorzine より:

    今回の震災被害を見た時に私は「これで人口減に拍車がかかった」と思いました。

    2006年以降数十万人規模で現在日本の人口は減り続け、2040あたりには一億を切るとの試算もあります。人口が一億を切ると国の形を変えざるをえません。

    大震災を経た地域はそれだけで新たにそこへ住居なり企業なりを移す事はどうしても躊躇するようになります。それは今回の震災エリアも同じです。地元の方々は執着する地域も、これだけ津波の威力をビジュアルで見せつけられたなら、好んで住まいを移そうとしないでしょう。

    様々に義援金や支援を申し出る企業や人々も拠点を震災エリアへ作る事などはしにくいでしょう。

    神戸、東北エリアだけに視点を向けるとなんとかなりそうなものでも。国全体に目を向けると完全に人口問題は解決不可に見えます。

    私は先進国がそうであったように、移民政策の検討をはじめるタイミングと捉えています。