浜岡原発についての首相の「停止要請」について協議した中部電力の臨時取締役会は結論が出ず、週明けに決定を先送りしたようです。これは当然です。首相の要請は閣議決定も経ていない個人的な「お願い」であり、それに従わなかった場合のペナルティは何もない。首相は6日の会見で「指示や命令は現在の法制度では決まっていない」と述べましたが、法的根拠のない要請(事実上の命令)を首相が公然と行なうのは言語道断です。
他方、これに従って中部電力が運転を止めると、火力発電の燃料費が今年だけで2500億円増えると予想され、これは今期の営業利益の2倍です。法的根拠のない要請に従って巨額の損失を出した場合、株主代表訴訟を起こされたら勝てないでしょう。それが歯止めになっているものと思われます。
実際には、政府は浜岡原発の運転を法的に止めることができます。いま東京高裁で係争中の浜岡原発訴訟で、中部電力に和解を勧告すればよい。これも強制力はないが、司法的な手続きで運転を差し止めることができます。これは日本政府として「浜岡原発は危険だ」と認めることであり、そういう意思表示なしに行き当たりばったりに運転を止めることはできない。
法的根拠なしに運転を止めるには、それによって中部電力のこうむる損害を政府が賠償する必要があるでしょう。2年間で5000億円の予算が必要ですが、これについて国側は「中部電力が原発停止を決めても、あくまで自主判断」と責任逃れをはかっています。日本の官庁は、これまでも口頭の「行政指導」で企業に指示を行ない、それが問題を起こすと「業者が勝手にやったこと」と逃げてきましたが、それを首相が白昼堂々とやったのは初めてです。
個人としての菅直人氏が、低迷する支持率を回復するために浜岡原発を止めたい気持ちはわかりますが、日本は独裁国家ではない。今すぐ運転を止める緊急性はないのだから、実行したければ法的な手続きを踏むしかない。こんな水戸黄門の印籠みたいなやり方は、法治国家では通らない。今回の要請を、産経以外のマスコミが肯定的に評価しているのにもあきれます。日本人は、まだ水戸黄門の時代に生きてるんですね。
追記:ツイッターで指摘があったが、電気事業法第40条に「経済産業大臣は、事業用電気工作物が前条第一項の経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは[・・・]その使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる」という規定があるので、経産相が技術適合命令を出せば運転を止めることができます。その前に安全審査のやり直しが必要でしょうが。
コメント
週明けの株式市場が、どういう展開になるか楽しみです。
1.最終的には止めることになる、と想定して暴落
2.週末に停止を決めなかったことを好感し、若干上げる
3.脱原発を好感し、ストップ高となる
4.投機筋のオモチャに成り果てる
関電を筆頭に、他の電力会社は下げ基調でしょうね。
中部電力の経営陣は「停止要請」に内心ほっとしたはずです。東電の会長、社長以下役員たちが受ける屈辱を毎日テレビで見て、このまま運転を続ければ明日はわが身かと恐れおののいていたに違いありません。運転を止めればこの恐怖から解放されるのですからね。所詮サラリーマン経営者、会社の利益より自分の身の方が可愛いですからね。独占企業ですからコストが上がっても料金を上げればよい。少々減益になったところで、国策だから経営責任も追及されないし、給料や退職金が減るわけでもない。
経営陣だけでなく社員もほっとしてるでしょう。株主も物言う株主はいないでしょう。殆どが機関投資家か年金運用、年寄りの個人株主です。紙屑になるリスクがなくなって安心してます。電力の消費者も料金の値上げは仕方ないと受け入れるでしょう。取締会が紛糾したのもただのアリバイ造りに決まってます。終わってから祝杯を上げたのではないでしょうか。
地域独占の立場の中部電力ですが、一応民間企業です。総理の懇願は法的根拠がないため従う必要は有りません。
しかし、一民間企業だからこそ、CSに気を配る必要があります。たとえ地域独占であったとしても。CSを無視すれば反原発の火に油を注ぐ結果になりかねない。
ひとまず、「安全が確認されるまでは」と鍵括弧付きで運転を休止し、徹底的なチェック及び津波対策を実施した上で、地域住民及び電力ユーザーにお伺いを立てる、これがベターな流れだと思います。
クレーマー対応は短気になっては負けです。
池田さんの記事の繰り返しになってしまいますが、とにかく今回の管総理の発言は以下のものが欠けています。
1.法律的根拠
2.科学的根拠
3.発言する事の責任
過剰なのは
1.放射能が怖いという空気を読む力
2.とにかく反対することが正しいと言う野党根性
これって、風評そのものですね。
これを賞賛するマスコミも、、、。結局、この人を選んだ日本人全員の問題なのか?彼以外なら誰でも良いから変えた方が良い、と思わせられる。それはそれで思考停止だが、、、、。
始末が悪いのは、個人の「感情」からくる命令とそれに迎合する「空気」に対抗するのに「理屈」が通用しない事。かといって感情レベルにあわせると「好き嫌い」と言う事に成り果ててやっぱり説得は不可能になってしまう。
中部電力の法務部が法律的根拠のある命令書を文書で請求し、停止に応じた上で大幅な電力料金の値上げを発表すれば、、あ、だめか、国に保障を求めるから、見かけ上の個人負担は起きないんですね。それも税金でなく国債でまかなうから将来世代への負担先送りで、見かけ上誰も損をしない事になるのか。
>クレーマー対応は短気になっては負けです。
その通りですが、総理大臣がクレーマー代表って、泣けてくるよ。。。
もし中部電力が無条件で菅首相の要請を受け入れたら、電力セクターのみならずトヨタグループ各社の株価には良い影響を与えることはないと予想します。
今回の震災で日本経済の余命が1年縮まったと思いましたが、菅首相の独り善がりな政策でさらに1年縮まったと思います。
浜岡には電源車は配備されていますが、冷温停止させるには出力が足りないようです。ttp://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/200/80511.html
あと、現場の作業員の証言では、電源喪失は津波は関係なく、最初の地震の時点ですでにすべてのバックアップ電源が失われていたという話もあります。
確かに、法的に拘束力のない、首相自らによる”行政指導”に、一民間企業が従う必要はありません。上場企業ですから、株価に影響を与える意思決定は拙速できませんし、民間企業であるかぎり株主の意思に経営者が背くわけにはゆきません。
問題は、地域独占が認められた免許事業者が、(こんな国ではあるが)一国の総理が申し入れた「お願い」を聞かなかった、ということが、顧客や地域住民、及び国民全体からどのように評価されるか、という点でしょう。中部電力はこの点は見極めたいのではないでしょうか。
中部電力は過去にこれといった事故を起こしたわけではないですし、浜岡以外に原子力発電所を持っていません。水力発電が豊富で、産業用電力が過半という電力会社です。顧客が特定少数の産業界の重鎮なので、その意向も聞いておきたいのではないでしょうか。
唐突なのは…
議論をはじめると、決まらなくなるから。
法的根拠が曖昧なのは…
法的根拠も、利権の恣意性から自由ではないから。裁判でさえ堀江氏の件のような有様です。
あと、いくつかのコメントについて。
電力会社を株式会社の文脈で論ずるのは、制度面のみにとどめるべきです。
競争にさらされるからこそ、経営がどうとか、市場の評価がどうといった、民間企業の通常の議論が成り立つわけです。電力会社の場合は、よりいっそう、株主の意思よりも、法が優越するし、法は政策によって…。
電力会社の運営を決めるのは、実際のところ国の施策です。株主訴訟を起こしても、きっと長期戦に持ち込まれるはず。民間企業の仕組みを採っていることと、民間企業であることをきちんと識別することが必要です。
浜岡停止が、なぜ、このタイミングかは疑問ですが、今の日本の実情では、おかしくはない政治判断かと思います。日本が先生が思い描かれるような、法治国家であってほしいものです。
私は、浜岡原発を前面停止した菅総理に全面的に敬意を表したい。
そもそも原発自体は、50年前からの国策ですので、全面停止は、一国のリーダーである総理にしか決断できません。
なにもしなくて批判を受けるなら何かを決断して批判を受けるのもリーダーの役割です。批判するのは、決断することより簡単です。そこにおいては、責任がないからです。
後は、計画停電を阻止するべく、中電が24時間英知を結集して具体策を練ればいいことです。
そのためには、夏場の暑さも寝苦しい夜も我慢する用意があります。日本国で生活する以上これが我々に課されたこの夏の課題です。
計画停電だけは、阻止しましょう。中電は東電を反面教師にするべきです。
そして、これからの課題は、社会的インフラである電力・水・道路事業は一民間企業に委ねるべきでないと思います。
以前から原発と安保は似たような構図だと主張されてきましたが、ますます似てきた気がします。浜岡は辺野古になる可能性があると思います。
原発なしでエネルギー政策を語れるにこしたことはないですが、担っている役割の大きさ(ステークホルダーの多さ)が、単純に無くすことを困難にしています。
ステークホルダー全員を見据えた中長期プランを描かずに、一部の方向だけを向いて説得しようとするから、このように混乱するのです。
政治が問題を余計に政局化するから、対立構造が先鋭化して溝が深くなる。
>8 uhohoi2011さん
民間企業であって、民間企業ではない…
もしくは、国の施策によって云々とのことですが、それ自体は、確かにそうだと思いますが、その点を推し進めますと、では東京電力(福島原発)の保証を、もしくは責任を東電に押し付けている現状は、ある意味では適切ではない、という考え方に行きつきませんか?
私もインフラ企業は株式会社でありつつも、、という点についてはどう意見です。それがために、福島原発の事故問題においては、現時点で東電のみが矢面に立たされ避難されている様に違和感を感じています。
今回の原発停止問題も、民間企業としての立ち位置と、国の施策に基づく点との狭間にあるものだとは思いますが、法的根拠も無い管氏の発言は理解することが困難だと思います。
日本国は、彼の玩具ではありませんからね。
ちょっと違うのではと思っていましたが、twitterに対する追記部分を読んでさらに違うと思いました。
「・・・技術適合命令を出せば運転を止めることができます。その前に安全審査のやり直しが必要でしょうが。」と書かれていますが、安全審査のやり直しに時間がかかっている間に地震や津波が来たらどうするのでしょうか。正しい安全審査を行なうためにも一旦止めて考えるべきというのが、既に明らかになった原発のリスクに対処する本来の姿ではないでしょうか。
また株主代表訴訟を起こされたら勝てないとありますが、仮に私が株主だとして、もし中電が近い時点で停止の決定をできないとすれば、紙切れになる可能性の高い株など持っていたくありません。原発を止めない事の方が株主の利益に反する可能性が高いと考えます。
もし私が中電の社長なら、すでに地震と津波による原発事故が明確に想定すべき状況となった今、道義的にも経営的にも法的にも、停止させない決断はないと思います。
私がもし経団連の会長だとしても、浜岡は止めるべきと考えます。なぜなら浜岡を止めた場合でも、ある程度の努力でその損害を小さく押さえ込むことが出来そうですが、現在の状況にプラスして万が一の事態が発生した場合には、日本の産業は本当に壊滅的ダメージとなります。
私がもし静岡県民だとすれば、原発非難民になりたくないので当然ながら止めて欲しい。
どんな立場だったら原発を止めないでほしい、あるいは止めない方が良いと思うか考えてみましたが、思いつきませんでした。
最後に、一人の国民として、少しでも早く一旦止めてほしい。その上で冷静に考えましょう!
首都圏直下型地震が来るかもしれないと言われている所に平気で住んでいる人の言うことは何となく信用できません。自分の危機管理さえできない人の集まりに思えてしまいます。ただし経済的理由で離れられない人は別だと思いますが。
先日の福島原発の事故については「人災だ」という意見を多く見た。
その視点で考えると浜岡をいったん止めて安全を確保してから再スタートするという形を早急にとろうとしなければ第2の「人災」が起こること何の備えもしなかったということになるだろう。
それともその時はまたその時の総理を叩けば済むと言うことなのか?
この浜岡停止要請は、浜岡と今後についての考えから実行されたというより、福島が人災といえるのか?また人災であるなら時の総理・政府の責任なのか?東電が加害者なのか?電力を実際に消費していた地域の人々はどうなのか?危険だとしらなかったからよかったのか?知ってしまった今はどうなのか?という問いかけだと思われます。