ドイツのメルケル政権が、2022年までに原発を全廃する方針を決めた。福島事故でにわかに反原発ムードが盛り上がった日本とは違って、ドイツはもう10年以上、脱原発をめぐって議論が続いており、ある種の「覚悟」があってのことだろう。Spiegelの論評をみても、来るべきものが来たという感じで、驚きはない。
原発をなくせば事故のリスクはなくなるが、その生み出すエネルギーもなくなる。電気が減ったら、みんなが節約して「エコな生活」が実現すると思っている人もいるようだが、そんなことは起こらない。たとえばA.T.カーニーの分析によれば、日本のすべての原発を廃止すると、2020年に最大26%の電力不足が生じる。このギャップをすべて再生可能エネルギーでまかなうとすると、電気料金を70%値上げする必要がある。
こうした変化は、GDPを減らす効果はあっても増やすことはない。一般家庭にとっても電気代の値上げは実質的な「貧困化」をもたらすが、最大の影響は産業用の電気料金である。鉄鋼・アルミ・石油化学など電力使用量の大きい産業では利益率が大幅に下がり、投資が減り、海外シフトを余儀なくされるだろう。エネルギー節約の余地もあるが、産業用の省エネはかなり進んでおり、節約できるのは5%程度である。
「日本は重厚長大産業を脱却しなければならないのだから、エネルギー価格が上がるのはいいことだ」という人がいる。しかしサービス業の競争力が上がって労働人口が移動するのは日本経済にとってプラスだが、重厚長大産業の競争力が下がって雇用が減るのは、失業を増やすだけである。脱原発の最大の被害者は、エネルギー多消費産業の労働者と、工場の立地する地方都市の住民だろう。
再生可能エネルギーは、原発の代わりにはならない。現実には、原発を減らした場合の代替エネルギーとしてもっとも有力なのは、ガスタービンである。原発をLNG火力に切り替えれば電力不足も値上げも防げるが、地球温暖化を警戒するドイツ人は、この選択肢も取らないようだ。このような禁欲的なエネルギー政策が破綻するのは時間の問題だろうが、他国が実験するのはやってみればいい。
ドイツ人のように、こうしたメリットとコストを十分議論した上で脱原発を決めるなら、それはそれで一つの選択だと思う。しかし「自然エネルギーは原発より安い」などというのは、こうした本質的な選択をごまかして国民をミスリードするものだ。民主党政権が脱原発に舵を切ろうとするなら、こうした数字を国民に見せた上で判断を求めるべきである。
コメント
池田先生へ
原発がコストが安いことはわかりましたし、安全性も高いということは理解できました。でも、原発で使い終わった燃料棒とかを処理できていないことはどうするのでしょうか?
もちろん原発事故が発生して、まずは安全面の議論が行われるのは理解できますが、そもそも使用済燃料棒の処理等が抜本的に解決できていないという原発そのものの大きな課題もあると思うのですが。
自然エネルギーが発電コストが高いことは理解しているのですが、原発においては使用済燃料等が処理できていないコストを見積もる必要があるのではないでしょうか?
現在の原発による発電コストは将来発生するコストを先送りしているから、安いという理屈は成り立ちませんか?
原発の存在が問題なのか、それを管理する人間と体制が問題なのか、その判断をはっきりとさせた上でこれからの電力をどうするのか考えんといけませんな。
ついこの間まで1%上げるのに首相の首までかけていた消費税がもう5%上げるのが当たり前になっている。おまけに電力料金も上がる。
それでもこの国の人間は「税金上げるなら政府が給料も上げてくれるさ」とでも思っているのだろうか?と不思議になりますね。
何があっても自分の生活だけは守られる、国がなんとかしてくれる、という妄想に取り付かれているのだとしたら、最後の地獄を見るまで治らんでしょうな。
いやしかし、大の男が相手にしてもらえないことを根に持って、ネチネチとつきまとい変態行為を続けてよだれを垂らしているのを見ると、これこそが今の「日本人」を象徴しているとも言えますな。
何を必死にやってるんだ?と見ている周りは笑えてきますが、やってる本人はくそ真面目なのがまたむなしさを誘う。今の首相と同じです。
まぁ、首相ともどもどこまで続けられるのか、その「限界」を見物することにしましょう(苦笑)
池田先生の言われることももっともですが、私もganz007jpさんに同意します。我々の文明が地球の膨大な蓄積の上に繁栄していて、その蓄積をド派手に使っている以上、先の事より今の経済なのかも知れませんね。
経済学者の方々の言う今年の成長率とか今年のGDPとか、そういうきりがないゲームに疲れている人も実は結構いるんじゃないかなと思うし、そういう人が、経済合理性の完全否定をしてるんじゃないでしょうか。
過去と将来を今現在消費する経済に不安を感じます。
ドイツは、国境を接するフランス等から電力を輸入出来ます。
日本より涼しく湿度も低いので、夏のエアコン需要もわずかです。
冬は寒いので、コジェネが有効な期間も長くなります。
これくらいの条件があれば、原発無しを選択するのもアリでしょう。
日本で脱原発&再生可能エネルギーの価格転嫁で電気料金アップが進むと、
臨海工業地帯は自家発電に切り替えるでしょうね。
内陸部の関連産業も、安い電気を求めて工業地帯へ移転します。
そして、能力的・体力的に移転を決断出来ない零細工場は潰れます。
雇用移転先であるサービス業は、規制だらけで受け入れ余力無し。
ここでも、問題を先送りしてきたツケが回ってきます。
ドイツとは比較にならないほど大きな覚悟が必要ですね。
核廃棄物の問題は、私のブログに書きました。これは技術的には何の問題もなく、政治的・心理的な問題。まぁ原子力全体がそうだけど。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51710655.html
今すぐ原発をすべて止めると1985年と同水準の発電量だそうですが、推進派の一部が言う「クーラーも冷蔵庫もない」世界とはだいぶ隔たりを感じます。
>最大の影響は産業用の電気料金
1985年以降の電気使用量増加の理由は、日本の製造業の躍進のためではなく無論産業における電気利用効率の悪化にもよらず
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/01/01090503/04.gif
圧倒的に需要が伸びているのは業務用(オフィス、飲食店、学校など)で、産業ではむしろ低下しています。そういえば、最近の小学校はクーラーが入るんでしたっけ。
電力供給量が低下したからといってすべてのレストランやパチンコ店が80年代の水準に電力使用を控えてくれるわけもありませんが、料金面で製造業(とか病院とか)を優遇してそれ以外での消費を抑制することは可能なのでは?
最悪のシナリオとして新エネルギーの開発がさっぱりすすまず化石燃料の値段が高沸し電力配分もでたらめになりすべてが回らず…となる前に、現実的には脱原発が遅れるだけのことだろうし、今の段階で自然エネルギーが問題山積みなのは当然としても、原子力災害のインパクトや将来にわたる廃棄物の問題を考えれば試みる価値はあるように思います。
ブログ拝見しました。海洋投棄と僻地への投棄ということでした。
私は素人なので技術的にはどうかわかりませんが、政治的・法律的というよりは仰る通り心理的に
「それってアリなの?」という感じがします。
また放射線は遺伝子情報を傷つけるといいますが、僻地や海底に適当に捨てて、生態系に影響ってでないのでしょうか。
そこまで言ったらSFの世界。「ゴジラ」誕生になってしまうかもしれませんが。
70%アップというのは安定供給も考えての値なのでしょうか?安定して太陽光と風力を賄おうと思えば、必要な設置数が増えます。単純に少ない割合の段階の風力や太陽光の電力料金は、当てはまらない事になります。
これらの稼働率が例えば合わせて5%しかない時間帯があったとし、それが電力消費のピーク時間帯と被ると、安定供給の為に普段からベースの太陽光・風力発電所の数を沢山作っておく(当然それ以外の多くの時間は無駄な電気を作っている)、普段休んでいて、太陽光・風力が稼働しないときのみ動く火力発電所を作っておかなくてはならず、それらの設備投資や維持に大量にお金が必要です。
それらを含んで最大の効率化をしての試算での70%増ならば予想していたよりも安い額です。