高額所得者と高収益企業に対する大減税をするだけで日本はアジアで圧勝できる

藤沢 数希

民主党税調は13兆円程度の復興財源として、個人所得税と法人税の増税でまかなう方針を決定した。これは極めて愚かな選択をしたという他ない。筆者は、なにも増税に反対しているわけではない。しかし日本において、所得税の累進性をさらに強めるような増税や、法人税率の引き上げは自殺行為の他なく、結局、税収も減り、国民負担が増大してしまう結果になるだろう。高額所得者や大企業からさらに税金を取ることは、政治的には支持率のアップにつながる可能性もあるが、日本の将来のことを考えるなら愚策としかいいようがない。なぜか?


日本は年収1000万円程度までは世界的にも税負担が少なく、また中程度の福祉を享受している。多くの国民にとって日本というのは低負担、中福祉の国なのである。この少なすぎる負担は、国債を次々に発行し、子や孫の世代に負担を押し付けることによって成り立っている。国債とはいうまでもなく、将来の税金の先食いである。ところが年収が数千万円以上の高額所得者や、利益を上げている法人に対しては世界最高レベルの極めて重い税金が課せられている。とりわけアジア諸国との租税競争は深刻で、近年は高額所得者や、多国籍企業の中枢機能の流出を招いている。


出所: KPMG、国税庁などの公開資料から筆者作成

このような状況で、高額所得者に対する累進性を引き上げ、企業利益に対する税金を引き上げれば何が起こるかは火を見るより明らかだろう。日本から富を生み出す人材や会社の流出が加速し、その結果、さらに税収は落ち込むことになる。所得税や法人税はフラット化して税率を引き下げたほうが、税収が増えることは今や世界の常識である。来週発売される拙著にも書いたのだが、例えばロシアでは、2001年1月1日に13%のフラット・タックスを導入した結果、2001年の個人所得税の税収がなんと47%(インフレ調整済みで25%)も上昇し、驚くことに2002年はそこからさらに40%(インフレ調整済みで25%)も税収が増加したのだ。この程度のフェアな税金なら脱税やトリッキーな節税などせずに全てをそのまま申告した方がいいので、一気に税収増につながった。上に政策あれば下に対策あり、なのである。

筆者は、シンガポールや香港のような、高額所得者や多国籍企業の中枢機能を日本と取り合っている国をよく知っているが、都市のインフラストラクチャーや文化的な魅力度では依然として日本が圧倒的にすぐれいている。全国に張り巡らされた鉄道網、都心を中心に良質な不動産物件、極めて質の高いレストランの数々、人々の高いモラル、四季折々の豊かな自然など、アジアの都市とは比べものにならない重層的で豊かな生活が日本にはある。結局、圧倒的に不利なのは税制だけなのである。この税制さえ、他のアジア諸国並にすれば、日本は容易にアジアの成長を享受する中心になれるのだ。そんな簡単なことがなぜできないのか。筆者は非常に無念に思っている。

参考資料
今後は普通のサラリーマンが一番増税される、金融日記
続・なぜ増税は消費税でなければいけないのか? アゴラ
「租税競争」に日本は生き残れるか、池田信夫