ソフトランディングできる時期は過ぎた - 『国債・非常事態宣言』

池田 信夫

国債・非常事態宣言 「3年以内の暴落」へのカウントダウン (朝日新書)
著者:松田千恵子
販売元:朝日新聞出版
(2011-09-13)
★★★★☆


本書のタイトルは、版元がつけたものと思われるが、大げさである。本書は「非常事態」を宣言してはいないし、「3年以内」とも言っていない。内容は、元ムーディーズのアナリストによる日本の債券市場についての客観的データの分析である。ただ、その結論はかなり悲観的だ。

欧州では、すでに国債の暴落が始まっているが、日本は逆に長期金利が1%を切り、円高になるなど、債券市場は落ち着いているように見える。「だから財政危機なんて幻だ」という人々がいるが、著者はこうした楽観論の根拠を一つ一つチェックする。

  1. 日本が「国」だから

  2. 徴税権があるから
  3. 日本国民が裕福だから
  4. 国内債だから
  5. 対外純資産が莫大だから

これは先月の「いまさら聞けない経済学」でも解説したことだが、すべて成り立たない。テクニカルには、国内債だろうと外債だろうと、国が際限なく紙幣を印刷すれば償還できるので、債務不履行は起こりえない。しかし通貨の増発はハイパーインフレ(実質ベースの債務不履行)をもたらし、これを適度な水準で止めることはできない。なぜなら、通貨の発行を止めると債務不履行が起こるからだ。

本書も指摘するように、財政破綻による最大の影響は金融危機である。欧州のように財政危機が国債の暴落を引き起こし、それを保有する銀行の資産が毀損して金融危機が起こり、その救済によって財政危機がさらに拡大する・・・という悪循環に入ると助からない。

実はメガバンクはすでに国債の期間構成を短期化して逃げ始めており、危ないのは逃げ遅れた地方銀行である。逆にいうと、彼らが逃げ始めると、国債の相場が崩れる可能性がある。長期金利の上昇は、実際に債務不履行が起こるかなり前から起こるので、「3年以内」もオーバーとはいえない。

最終的に信頼をつなぎ止めているのは、国家が徴税によって国債を償還できることだが、消費税率を25%に上げたとしても、2020年にギリシャ並みの債務水準にもならない。10%に上げたぐらいでは、プライマリーバランスの黒字化は不可能なのだ。特に社会保障支出が今後の高齢化で激増するので、これを削減しないと財政は維持できない。

本質的な問題は、政府の統治能力である。少なくとも、こうした事実を直視し、増税と歳出削減の見通しを明示しないと財政は再建できないが、民主党は選挙を恐れて、いまだに「増税か否か」を議論している。社会保障に至っては、消費税と抱き合わせで歳出を増やすありさまだ。

こうした状況を総合して、著者は「財政危機がソフトランディングできる時期は過ぎた」と結論する。もし3年以内に国債が暴落し、インフレ・株安・円安になるとすると、資産も海外に分散する必要があり、すでに資本逃避は始まっている。おそらく財政破綻は避けられないが、問題は「Xデー」が来たとき政府がどう対応するかである。評者としては、そのときせめて民主党政権ではないことを祈りたい。