著者:佐々木 融
販売元:日本経済新聞出版社
(2011-10-12)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆
円がまた最高値を記録した。政府・日銀は大規模な介入をしたが、これによって円高は止まるのだろうか。著者は否定的だ。現在のドル/円レートは購買力平価でみても実質実効レートでみても妥当な水準で、今後もドルは下がる可能性が高い。その最大の原因は、日本の物価が相対的に安定しているため、通貨価値が上がったことである。
通貨が強くなるのは実質所得が増えるので、基本的にはいいことで、「デフレになったら景気が悪くなる」などという話は、原因と結果を取り違えたものだ。企業は実質ベースで経営しているので、デフレを織り込めば影響はない。著者も言うように、デフレや円高は実体経済の「鏡」であり、鏡の向きを変えても美しくなることはできないのだ。
「日本の成長率は低いのに円が強いのはおかしい」という類の議論も間違いだ。為替レートはマネタリーな指標なので、通貨の需給で決まる。国力とか成長率とは関係ないのだ。他方、「日銀がマネーを供給すれば円高は止まる」というのも間違いである。日銀がマネーを供給するときは国債を買っているので、円資産の総量は同じだ。金融緩和が円安をまねくのは金利を下げることによってなので、今のようにゼロ金利では金融政策の効果は限定的だ。
「無限にドルを買えば円高は止まる」などという連中は、為替介入と通貨オペレーションの区別もついていない。政府の為替介入は、日銀の買いオペと違って、政府が税金で為替リスクを取ることなので、失敗すると巨額の損失が出る。介入の効果は、政府が何百兆円も赤字を出すことを覚悟しない限り一時的なものだ。
では、この円高を止めることはできないのだろうか。本書はできないという。日本の物価が安定して他国のインフレが続く限り、中期的には1ドル=50円台まで下落してもおかしくない。ただ長期的には、日本の財政赤字がリスク要因だ。著者は10年以内にはそういう事態は来ないと予想しているが、長期的には財政破綻によるインフレで1ドル=150円ぐらいになってもおかしくない。
通貨が強いのは基本的にはいいことだが、日本は大きな経常黒字なので、円高は輸出産業には不利だ。ただドル決済は中東などを含めると輸入超過になっているので、あまり重要ではなく、アジアの通貨、特に韓国のウォンのレートが重要だ。韓国にウォン安政策をやめさせる必要がある(これは最近、韓国も理解したようだ)。
著者も強調するように、為替はしょせん通貨の交換比率に過ぎないので、それをどういじっても、日本経済の本質的な問題を解決することはできない。ゼロ金利やデフレは弱い消費や投資意欲などの活力の低下の結果であって、原因ではないのだ。これは経済学者も言っていることだが、経済学者は信用できないという政治家のみなさんには、それを為替トレーダーがデータで実証した本書を読んでほしい。