人材難に陥っている意外な職種

高橋 正人

失業率の高止まりや各企業の採用枠の縮小傾向などから、日本の労働市場は買い手市場(企業側に有利)であると考えている人も多い。確かに、労働者の「数」の確保を目的にするのであれば、買い手市場と考えられるのかもしれない。しかし、人材の「質」を論点とした場合でも、企業側の満足する人材が供給されていると言えるのだろうか。また、適切な人材がいないとすると、具体的に不足している職種は何であろうか。

1.人材不足感の国際比較


まず、人材の「質」という面で買い手市場と言えるのか、という点をデータに基づいて確認したい(ソース:米Manpower社の人材不足調査「2011 Talent shortage Survey Results」(*)(調査時期:2011年1月、調査対象:39ヶ国・約4万社))。

下記のグラフは、求めているレベルの人材確保に苦労している、と答えた企業(人事部門の責任者)の割合である。

我が国においては、80%もの企業が満足できる水準の人材確保に困難を感じており、世界平均や他国と比較してもかなり高い水準である(調査対象39ヶ国中、日本は最も高い数値)。

また、適切な人材が不足している理由としては、「実務経験の不足」、「職務に対する適切な考え方や価値観を持っていない」、「会社の事業に対する知識、専門知識、業界で必要な資格がない」、「職務に対する適切な人格や適性を持ち合わせていない」といった点が上位に挙げられている。要は、人事担当者としては、経験、知識、適性の三拍子が揃った高度な(プロフェッショナルな)人員を求めているものの、労働者の質が追い付いていないという状況である。

2.人材難の職種とは
では、具体的にどういった職種の人材確保に企業は苦労しているのであろうか。下記の表は、「最も人材不足感のある職種は何か」という質問に対する回答である。

日本において最も人材難の職種は営業職である(**)。様々な分野の専門家や管理職を抑え、営業担当者が特に求められているのはなぜなのだろうか。

3.プロの営業担当者が必要な時代
インターネットによる販売チャネルの急速な普及により、リアルな人間を使った営業・販売チャネルは縮小が続いている。しかし、営業職の淘汰が進んでいるのは、購入者が自らのニーズを良く把握しており、かつ品質を十分に理解可能な財・サービスである。つまり、淘汰されている営業職は、顧客のニーズを聞き、要望された財・サービスを提供していただけの単なる「取次屋」である。

したがって、営業担当者が不要になるわけでは決してない。むしろ、現代の製品・商品及びサービスは多様化/複雑化が進んでおり、高度な(プロフェッショナルな)営業担当者の需要は今後も高まっていくはずだ。企業側が「営業担当者が人材不足」と感じているのは、こういった背景を基にしているのではないか。

高度で複雑化した金融市場の発展により、証券会社や運用会社など個人や事業会社と金融市場を結びつける機関の仲介機能が重要となってくるのと同様に、多様化/複雑化する財やサービスと顧客をマッチングすることのできる高度な営業機能が求められている。

(*)
日本の調査部分については日本語の要約レポートがある。

(**)日本以外にも納得できる水準の営業職の確保に苦労している国が多い。人材不足の職種の第2位までに「営業担当者」がランクインしている国は、計14ヶ国にも上る(米国、カナダ、香港、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなど)。高度な営業職の人材不足は、日本に限らず世界的な傾向である。

高橋 正人

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