労働の二極化が議論になっています。(辻先生の記事,池田先生の記事)
この議論はまさに日本経済の論点ではないでしょうか。私もこの議論に関連して,前から気になっていることがあります。それは男女で違いがあり,実は女性の方の変化が重要だということです。新興国との競争,労働人口減少に加えて,女性の就業構造の変化もあると考えます。
まず,産業構造の変化全体を就業者数でみます。下の図は総務省統計局『平成22年 労働力調査年報』から抜粋した産業別就業者数の推移です。そこに経済イベントを書き加えてみました。図の特徴として,例えば高度成長が終わるまで製造業の就業者数が増加する一方,農林業は減っています。このような構造変化が高度成長の要因の一つでした。
(この図の興味深い特徴は,大きな構造変化の流れの中でも,経済ショックが転換のきっかけになっていることです。清算主義と言われるかもしれませんが,やはり不況は経済構造を変化させるきっかけになります。)
近年では,特に製造業と建設業が特に減少しています。製造業については新興国の成長が関係していることが議論されています。
(なお,円安バブルというのを赤枠で示しています。製造業の就業者数減少は構造的な変化です。円安で輸出が好調であった時期でも,図ではほんのこぶ程度としか現れていません。世界経済の大きなうねりの中では,政府ができることは限られています。これは今の政策議論でも論点のはずです。)
さて,製造業や建設業での減少と聞いて,おそらく多くの人は,男性の雇用の厳しさ(二極化)を思い浮かべると思います。けれども,下の図のように男女別に分けてみると,実際はかならずしも男性がというわけではありません。(注:2002年に統計上の産業分類が変更になったため,一部で統計の連続性がありません。データ)
図をみると製造業・就業者のここ20年の減り方は,意外かもしれませんが,規模も減り方も女性の方が大きくなっています。男性が約200万人の減少に対して,女性は約300万人もの減少です。(映画「ALWAYS三丁目の夕日」で青森から集団就職できた女性の六子は,この意味で特徴的です。彼女のように工員として就職する女性は今の日本では少なくなったはずです。)
それでも,女性の場合はサービス業,特に医療・保険への移動でほぼ吸収されています。一方で,男性は製造業や建設業からサービス業への移動が顕著には表れていません。
これは単に医療・福祉などのサービス業が女性に適しているというわけではなくて,男女の労働供給の違いが大きいと予想します。おそらく男性は生涯賃金をより強く意識した職業選択を行っています。サービス業の労働供給は大規模な女性の参入によって低く抑えられていて,低賃金になりやすい構造をもたらしていると考えています。そのほかに,社会的な要因(主婦のバイト,実家からの就業など)も影響しているでしょう。
新興国との競争の中で,製造業の就業者が減少してきた。相対的には女性の方が影響を受けたけれども,女性はサービス業へ移動・変化できた。一方で,多くの男性が今度は女性との競合でサービス業へ移動できないか,低賃金に甘んじるしかなくなった。公共投資の減少などにより,建設業でも男性の就業数が減少してきた。
このような中でどのように雇用を維持するか?金融立国を目指したとしても,就業者数では期待できません。図にはありませんがITも同様です。話は飛躍しますが,私は日本は国際国家になるしか道がないと思います。規模の効果がないと賃金は維持できません。男性は外(との関係の仕事)に出て,女性はうち(国内サービス)を守るというのが国レベルで生じるのではないでしょうか。
岡山大学経済学部・准教授
釣雅雄(つりまさお)