2008年以降の世界の株式市場は、リーマン・ショック、ギリシャ・ショック、ユーロ危機などさまざまな試練に晒されてきたわけだが、最近、急激に回復してきている。米国企業は金融危機の最中にドラスティックなリストラをして、筋肉質な企業体質になった。また、米国の中央銀行であるFRBは、金融機関から膨大な不良債権を買い取り、量的緩和政策を継続してきた。現在のアメリカの株高は、金融緩和とリストラの成果だともいえよう。そして株高の裏には、高止まりする失業率と、急激に悪化した政府の財政が横たわっている。
出所: Yahoo! Finance、米労働省のウェブサイトから筆者作成
米証券大手のリーマンブラザーズが潰れた2008年から、アメリカの企業は多数の社員の首を切った。4%から一気に10%まで上昇した失業率の推移を見れば明らかだろう。そしてスリムになったアメリカの企業は急速に業績を回復させたのである。これはアメリカの強さの一面であろう。一方で、日本の大企業はあれだけの経済の落ち込みを経験したにもかかわらず、ほとんどリストラをしなかった。結果的に、最近の電機大手の決算を見ても分かる通り企業業績の回復は鈍い。しかし日本の失業率は、世界同時金融危機を経ても4%~5%で推移し、世界で最も低い水準なのである。
経済学的にいえば、アメリカのやり方は資源配分の効率化という点において正しいように思える。しかし、リーマンショックで10%にも達した失業率は、4年の月日を経過した現在に至っても、未だに8%以上もある。株価の回復とは対照的に、アメリカの庶民の生活は苦しくなっていることはまぎれもない事実なのだ。また、評論家がよく絶賛するシリコンバレーのあるカリフォルニア州は、失業率が全国平均よりも高く、未だに11%の働きたいという人々に職がない。
世界のトップレベルの才能を有し、世界最強の企業群が集中するアメリカは、グローバリゼーションを最大限に活かし、今後も世界経済の中心であるだろう。AppleはiPhoneを中国で生産し、IBMやMicrosoftはインドでシステム開発をして、Googleのようなインターネット企業は世界の租税回避地で税金を払う。このようなジョブレス・リカバリーが続く中、アメリカ市民のフラストレーションは溜まっている。そのひとつの発露が「ウォール街を占拠せよデモ」に見られる過激な市民運動だ。金持ちや成功者を妬むのは日本人の専売特許のようにいわれるが、アメリカ人も成功者が本当は嫌いなのだ。そして、アメリカの政治家もこういった民衆に阿る形で、さまざまな社会主義政策を推し進めていくだろう。
グローバリゼーションによる世界経済の成長と、それにより(相対的な)不利益を被る先進国の多くの労働者との軋轢は、今後ますます先鋭化するように思える。
参考資料
大停滞、タイラー・コーエン
マルチスピード化する世界の中で――途上国の躍進とグローバル経済の大転換、マイケル・スペンス
日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門、藤沢数希