あるべきカタチ、映像コンテンツ権利処理機構「aRma」 --- 中村 伊知哉

アゴラ編集部

映像コンテンツ権利処理機構」。略称aRma。日本音楽事業者協会(音事協)、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)、日本音楽制作者連盟(音制連)、映像実演権利者合同機構(CPRA)、ミュージックピープルズネストによって2009年6月に設立された社団法人です。

映像コンテンツの二次利用に関する権利処理を円滑にして、コンテンツのネットワーク流通と実演家への対価の還元を進めようというもので、映像コンテンツの二次利用に関する許諾申請の窓口業務や不明権利者の探索などの業務を行っています。
珍しく、ほめます。


数年前、ネット権・ネット法の議論がありました。放送番組をネットで流通させるために、権利者、実演家の許諾権を制限しよう、という主張です。賛否両論が戦わされたのですが、おおよそその主張は正当ではないという方向に議論は収斂していきました。

つまり、放送番組のネット配信が進まないのは、実演家が権利を悪用してブロックしているからではなくて、単純にビジネスの問題。ネット配信の収益性が悪いから。

だから、ネット配信=二次利用を促進するには、法律を作って権利関係を強制的に変えるよりも、民間でビジネスを創出すること、おカネの流れを生むことで解決することが適当。ぼくもこの意見です。

aRmaはこの考えに基づき、設立されました。ほとんどの放送番組には、音事協とCPRAの実演家が出演しているのですが、放送局はそれぞれが扱う実演家が誰かを把握して別々に申請を提出する必要があり、非効率的でした。aRmaはその許諾業務を一元化するものです。

まず、Web経由で申請許諾を実施するシステムARMsを開発、音事協とCPRAの実演家データベースを統合し、放送番組送信可能化の許諾窓口業務をスタートさせました。放送局から年8000件の申請があるそうです。放送局がネットビジネスを本格化させるタイミングで、重要なインフラが立ち上がったわけです。

2010年1月には、不明権利者の探索も始まりました。過去のコンテンツに出演した人で、権利が不明な人は多数にのぼります。それを放送局が個々に探索するとコストがかかりすぎ、それがネット配信を阻む一つの理由です。

一つの番組に参加した出演者のほとんどが二次利用にOKを出しても、わずかな出演者の連絡先がわからずに頓挫するという例も多い。それはOKを出した出演者の二次利用収入の機会を失うことでもあります。

ただ、現状ではほとんどの探索依頼はNHKからのもので、民放からの依頼はわずかなんですと。NHKは古い番組のネット展開が多い一方、民放は新しい番組から配信しているからなんですね。

さて、放送番組のネット配信が本格化し、海外番販への取組も積極的になるにつれ、aRmaへの申請件数は増加、放送直後の二次利用も増え、体制を強化したり業務フローを見直したり、対応に追われているそうです。

ぼくはこれまで何度も、著作権問題は政府の審議会や委員会で法改正を巡って関係者が不毛な議論に何年もの時間コストを費やすより、民間でステークホルダーが組んでビジネスを組み上げることで解決していくことを主張してきました。

ネット法を巡っても、文化庁著作権審議会、総務省情報通信審議会や知財本部コンテンツ調査会などの場でも繰り返し議論されましたが、そこに巻き込まれている人たちの人件費をビジネス換算すれば、かなりの仕事ができるのに、というのがぼくの主張でした。

その点、aRmaは民間がビジネス対応で解決策を打ち出そうとする動きであり、それを政府がサポートするのは、今まさに推奨すべき政策モデルだと考えます。関係者のみなさまのご努力に頭が下がる次第です。

編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年5月17日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。