テレビ朝日が「四冠王」を達成した意味

山口 巌

毎日新聞が伝える所では、テレビ朝日が4月の月間視聴率で開局以来初めての「四冠王」を達成との事である。

テレビ朝日が4月の月間視聴率で開局以来初めての「四冠王」を達成し、長きにわたって日本テレビとフジテレビの2強体制が続いてきた視聴率争いに風穴を開けつつある。ある業界関係者は「キャストありきではなく、内容重視の番組作りが視聴者に受け入れられた結果」と分析する。同局好調の理由を探った。(毎日新聞デジタル)

この事実は、テレビ局の進むべき方向性のみならず、「コンテンツ産業」一般、牽いては日本企業全般の歩むべき道すらも示唆しているものと思われる。

第一に注目したのは、矢張り「キラーコンテンツ」は凄いなと改めて実感させられた、下記成功例である。

視聴率向上に最も貢献をしている番組がある。国民的な人気となっている刑事ドラマ「相棒」だ。現在は、新シリーズが放送されていないにもかかわらず、平日午後にリピート放送し、平均視聴率11%台(4月23日時点)を獲得。全日帯の数字を引っ張り上げるとともに、その後の「スーパーJチャンネル」への継続視聴にそのままつながっているとみられ、「Jチャン」は同時間帯1位を長くキープし、4月の平均視聴率も8.8%をマークしている。「相棒」は既に「シーズン10」まで放送されており、コンテンツのストックも豊富。いい意味で“大人向け”の上質な骨太ドラマであるため、繰り返しの視聴にも耐えられる。経営計画「デジタル5ビジョン」には、自局の伸ばすべき強みとして「骨太で企画力が高いドラマ」をうたっており、具体例として「相棒」をあげている。早河社長は4月の定例会見で、「『相棒』をずっと編成したいくらい」と称賛しており、他の民放関係者も「全日帯の強さは『相棒』の再放送にある」ととらえているほどだ。

「再放送」とはその名の通り、放送済み番組の使い回しである。従って、番組の制作原価はゼロである。これで、平均視聴率11%を獲得しているのであるから、テレビ朝日としては笑いが止まらない訳である。

ちなみに、フジテレビのオダギリジョー主演ドラマ「家族のうた」は視聴率が3%台に低迷し、放送打ち切りが決定した。

番組編成も良く出来ている。

『相棒』が見応えのある番組なので、結果、視聴者はチャンネルを変更することなく最後まで見続ける。そして、余韻を楽しむのでチャンネルを変えない。そして、その後の「スーパーJチャンネル」への継続視聴に繋げている訳である。

野球で言えば、本来凡打で倒れる事の多い7番バッターがヒットと四球で出塁率5割を稼ぎ、8番、9番バッターが確実にこれを繋ぎ、クリーンナップで爆発と言うものである。野球好きの人間に聞いてみたら、こんなチームであれば、皆強いと言うに決まっている。

他局も羨むかかる編成が可能なのは、繰り返しとなるがテレ朝が『相棒』と言う強いコンテンツを所有しているからである。従来、テレビ番組は使い捨て的な面が多かったと記憶するが、今後、『相棒』の如き良質の番組をどれだけ世に送り、アーカイブするかがテレビ局の生命線との認識が広まると思う。

一方、テレ朝に期待したいのは、『相棒』の成功事例を従来サービスの「電波帯域」に封じ込めるのlではなく、ネットに開放した上で、「マネタイズ」を含めたビジネスモデルを早急に構築して欲しいと言う事である。

今一つ括目すべき点は番組の制作手法である。

テレ朝には「キャストありきでなく内容重視」を象徴するような番組がある。深夜の人気バラエティー番組「お願い!ランキング」だ。09年10月のスタート当初は有名タレントをほとんど出さず、番組ADを出演させるなどしていたが、ひねりの利いた企画の数々で人気を博している。同番組の関係者は企画を立てる際には「ちょっとストレートじゃない感覚。どこかエッジが立っているようなものを」と常に内容を重視しているといい、同番組からは、「川越スマイル」の川越達也シェフや「美しすぎる料理研究家」の森崎友紀さんなど人気キャラクターが誕生したり、声優の三ツ矢雄二さんが再ブレーク。また、「関ジャニの仕分け∞」や「白黒ジャッジバラエティー 中居正広の怪しい噂の集まる図書館」などが単独番組として生まれるなど、同局の元気の良さを体現するような番組となっている。

同局が重視する企画力はバラエティー番組でより強く発揮されている。バラエティーは「ロンドンハーツ」や「アメトーーク!」など同局を代表する人気番組が安定しており、「いきなり!黄金伝説。」はもちろん「お試しかっ!」「シルシルミシルさんデー」「関ジャニの仕分け∞」など、企画色の強い番組がここ数年の改編でゴールデン帯に進出し、成長を見せており、深夜で成功した番組をゴールデンへ移行するというモデルが成果を上げている。

注目するのは、深夜の深い時間帯、詰まりは、「波代」実質ゼロの所で実証実験を行い、結果を出したものを一本立ちさせたり、主戦場である「ゴールデン」に持って来ている点である。

再び野球を引き合いに出すが、これは2軍でじっくり鍛え、頭角を出した選手を一軍に昇格させる制度に似ている。この長所は、才能はあるけれど荒削りで実績の無い若い選手を育成可能な点である。これは、輩出される個々の選手に目が奪われがちであるが、実は、即戦力となる、一流の選手を再生産可能であるシステムである所が凄いのであると思う。

ちなみに、金満で有名な在京球団の一つ等は、札束でライバル球団の4番バッターを次から次に獲得しているが、成績は今一ぱっとしていないのではないか?

今一つの大きな違いは、「番組制作」に於ける発想が従来とは全く異なる点である。それでは、従来型の発想とは如何なるものであろう?

例えば、開局50周年企画でゴールデンでの視聴率30%必達が現場に厳命されたとする。従来型発想では大体下記の様なものではないか?

人気のシナリオライターに脚本を依頼。⇒ これで視聴率15%をゲット。

一時の「キムタク」の如き旬のタレントを主役に起用。 ⇒ これで視聴率10%をゲット。

「番組宣伝」と「週刊誌等とのタイアップ」で相乗効果を期待。 → これで視聴率10%をゲット。

上記で、視聴率35%狙い。悪くても30%は確保と言うもので、大体外す事は無かったと記憶している。

簡単に言ってしまえば、昨日のブロゴス記事の下記参照の通りである。

一方、テレ朝の企てはこの真逆である。深夜、テレビ画面の前に居るであろう視聴者の心理に深く立ち入り、彼らの望むコンテンツを提供する事で視聴率を獲得しようと試行錯誤を継続している。この辺りを、実に明瞭に説明した資料として村井氏のアゴラ記事、インサイトとの重要性~上からのビジネス、下からのビジネス~を参照する。

私は既存のマーケティング手法は、上から顧客を俯瞰してセグメントをする上からのビジネス。インサイトによる顧客に内在化したマーケティングは、内側から発想を広げる下からのビジネスだという風に考えます。そして最近感じるのはこの両者は、ビジネスの成長手法及びマネタイズ方法が全くことなるということです。まず、ビジネスの成長手法です。既存の場合は顧客がデモグラフィックで区切れたので、どのくらいの顧客が市場に存在しているかが分かりました。ですから、事業の成長率や成長速度が想像しやすかったのです。しかし、インサイトの場合は個に内在化することから始まり言語化し難い暗黙知により発想を見出す手法です。その段階でこのくらい顧客いて、成長率がこのくらいでと明確に分からないので、成長速度は非線形になることが多いのです。爆発的に一気に成長するかもしれないし、逆に全く駄目かもしれない。あるいは火がつくのは3年先かもしれないし、ずっと火がつかないかもしれないといった感じです。リーンスタートアップ(必要最低限の要求機能のみでビジネスを立ち上げ、顧客の様子を見て事業を成長させること)とかピボット(ミニマムで立ち上げたビジネスを方向転換すること)という手法は、こういう理由から生まれたのではないでしょうか。

過去のアゴラ記事にて説明した通り、消失した「マス」を志向する大企業、既存企業のビジネスモデルは最早長くは続かない。

今後に就いては、「ノマド」化に依るインサイト重視、「ピボット」に依るリスク分散を基軸とするリスク管理が主流になると考えている。その意味で、今回のテレビ朝日の快挙は日本の産業界が進むべき道を、朧げながらではあるが示していると思う。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役