NHKに依れば、“65歳まで雇用”改正案を可決との事である。
厚生年金の支給開始年齢が来年から段階的に引き上げられるのに合わせ、企業に対して希望する人全員を65歳まで雇用するよう義務づける「高年齢者雇用安定法」の改正案が、一部修正のうえ衆議院本会議で可決され、参議院に送られました。
改正案を露骨に言ってしまえば、従来は定年の60才迄は勤め先の企業が従業員の面倒を見、以降は国(年金)が企業に取って替わると言うものであったが、年金原資の枯渇から、企業が面倒を見る期間を65才迄延長するものと理解している。
果たしてこんな企てが巧く機能するのであろうか?
先ず疑問を喚起する第一は、企業に依って当たり外れがあると言う事実である。例えば、シャープに代表される家電製造業は今後リストラと海外移転を加速する事になる。働き盛りがリストラされる状況下で、60才以上の雇用が継続されるシーン等とてもイメージ出来ない。
国の責任に依るセイフティーネットが企業に移管され、本来責任を負うべき企業が消滅する訳である。結果、個人が60才を超えて寒空の下に放置される結果となるのではないか?
どうも、厚労省は実質破綻してしまった年金システムの延命と、その為の辻褄合せのみに熱心で、対象となる国民の事には興味が無い様に見受ける。そして、本来は国会議員がこの辺り目を光らす必要があるのだが、意欲も能力も欠如している様である。
こういう事であれば、最初から年金等に加入せず、個人で老後に備え積立した方が遥かに良かった事になる。厳しく言えば、国民は国家に依る詐欺行為の被害者と言う事である。
それとも、国が消滅した企業に代り、改めて面倒を見る制度設計になっているのであろうか? 何時も疑問に感じるのは、国民が不安を覚えるこう言った点に、政府は何故きちんと説明しようとしないかである。
今一つの疑問は、勤続年数が短い企業ランキングが示す通り、今世紀の日本経済を牽引するであろうネット系企業の勤続年数は、例えば、サイバーエージェント3.6年、楽天が3.3年、ディー・エヌ・エー2.9年が示す通り極めて短く、65才延長等とは真逆の実態では?と言う実状である。
野心と能力があり、実績を積んだ社員はより有利な条件で同業他社に転職しているに違いない。
好む、好まざるとに拘わらず、日本の産業政策が成功すると言う事は、こう言った、若くてエネルギッシュな企業が増え、規模を拡大して行く事に他ならない。
そして、引退後の生活を支える社会保障システムも、この変化を反映したものでなければ意味を成さないと思う。
従って、「高年齢者雇用安定法」の改正は、残念であるが、所詮、「絵に描いた餅」であり、機能しないと思う。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役