維新の会「400人擁立」のバブル

池田 信夫

大阪維新の会が「日本維新の会」と改称し、次の総選挙に350人から400人を擁立して過半数をねらう方針だという。これは無謀である。まだ公式に発表されたわけではないので、今からでも考え直したほうがいい。


まず現実問題として、遅くとも年内に予想される総選挙で、地盤も組織も資金もない政党が、候補者をそんな大量に擁立することは不可能だ。「維新政治塾」に集まった素人の中から自己資金で選挙運動できる者を選ぶというが、資金力のある人が政治家として適格だとは限らない。橋下市長には大阪府知事選や市長選で地盤なしで勝った成功体験があるのだろうが、小選挙区は組織選挙だ。党の人気だけでは勝てない。

既成政党や霞ヶ関の抵抗を押し切るには維新の会が単独過半数をとるしかないという気持ちはわかるが、2009年に民主党は300議席を超える圧倒的多数を取っても何もできなかった。霞ヶ関の拒否権に立ち往生したからだ。大阪市役所なら「職務命令」で押し切れるが、中央官庁ではそうは行かない。服従しない官僚を懲戒処分にしても、全霞ヶ関がボイコットしたら何もできない。

週刊誌の予想では、比例区で維新が自民党を超えたとか、小選挙区にも立てれば100人以上が当選するという話もあるが、それでも過半数はありえない。似たようなブームを起こしたかつての日本新党でも、1993年の総選挙で57人が立候補して35人が当選した。純然たる新党の得票としてはこれが最高記録で、日本新党はキャスティング・ボートを握り、細川護煕氏は首相になった。これぐらいがベスト・シナリオだろう。

おそらく現実にはトーンダウンして立候補者は数十人になると思うが、その場合でも維新の会の公約「維新八策」で他党と政策協定を結ぶことはむずかしい。首相公選とか参議院の廃止は憲法改正が必要だし、議員定数の半減や地方交付税の廃止には、すべての政党と霞ヶ関が反対する。維新八策は長期的ビジョンとしてはおもしろいが、目前の総選挙でそれを公約に掲げるのは無謀である。単独過半数が取れない限りどの党とも協力できず、結果的には何も実現できない。

日本の組織には戦術だけがあって戦略がないとよくわれるが、維新の会には綱領だけがあって戦略も戦術もない。国政の経験のある人がアドバイザーにならないと、暴走して壊滅するだけだ。橋下氏自身が「バブルですよ」と言っていたが、それを自覚しているならスモール・スタートで組織を固めたほうがいい。