高糖度のトマトをどう作るのか - 農業セミナー・ルポ

石田 雅彦

ちょうど一週間前に農業ジャーナリスト、浅川芳裕さん主催のセミナーを行ったんだが、スタッフとして参加者の皆さんのアテンドをさせていただきました。開催地は千葉県香取市にある農事組合法人和郷園。理事さんの話を聞いた後、家畜の糞尿や野菜処理の際に出る残滓などを堆肥にし、メタンガスを取り出して再利用するバイオマスプラント、冷凍野菜を作る加工センター、フルーツトマト栽培農家、和郷園が進める体験農場施設などを見学しました。



理事の方が語る和郷園創業者、木内博一さんの逸話もおもしろかったが、中でも伊原努さん(写真の人)という方がビニールハウスで作るフルーツトマト栽培の話が興味深いものでした。伊原さんは和郷園の会員生産者で、高糖度の「みつトマト」というブランドトマトを、アイメックシステムという方法で栽培しています。

これ、一種の水耕栽培です。ビニールハウスの床面に防水ユニットを設置し、ピートモス(培土)やハイドロメンブランという膜を敷き、その数十ミクロンという薄い膜の上で苗を育てるらしい。苗はシステムプレートに根を張るので、ビニールハウス自体の土は単なる土台。光のある設置場所さえあれば閉鎖系のハウス栽培が可能なので、砂漠でもLEDプラントでも津波被害を受けた塩害地でも、どこでも農作物を作ることができます。

アイメックシステムを開発したのは、早稲田大学理工学研究所の森有一さんらが設立したベンチャー企業。ハイドロメンブランというのは一種のハイドロゲル膜なんだが、膜は水分や栄養を吸収するがそれらが外へにじみ出すことはありません。トマトなどはストレスをかけると甘味が増す、という性質があるので、ハイドロメンブランへ根を張ると自ら積極的に水分や養分を摂りに行き、それがストレスとなって糖度の高いフルーツトマトができるらしい。また、この膜は病原菌やウイルスを通さないので、病害を防ぎつつ作物を作ることができます。

栽培者の伊原さんは26歳、農業を始めて5年。東京農大卒業後、地元に戻ってトマト作りを始めたらしい。試行錯誤の末、アイメックシステムによるトマト栽培を軌道に乗せた、と言います。先日、オイシックスという農産物通販サイトが主催する「N-1サミット2012」で金賞を受賞したんだが、消費者からも高く支持される若き生産者、というわけ。ちなみに、セミナー主催の浅川さんによると、この伊原さんは近々ご結婚される、とか。ここでは嫁不足なんてないのかもしれません。

伊原さんいわく「糖度が増すと収量が減る」ジレンマをどう調整するかが課題らしい。だが、連作障害もなく、低農薬、低コストのアイメックシステムはまだまだ可能性がありそうです。普通のトマトがキロ単価250円とすると、高糖度のトマトは高いもので2000円ほどもする。浅川さんによれば、飽和状態の農作物の中で、高糖度のフルーツトマトの市場はこれからも伸びシロが大きい、というわけです。

和郷園は人工光線による結球レタス栽培も始めたそうです。これが軌道に乗れば、価格変動の激しい季節物野菜の代表格であるレタスの安定供給につながり、結果として価格が安定し、外食のメニューにもレタスが普通に使えるようになる。浅川さんによれば、アイメックシステムに目をつけてビニールハウス栽培へ採用したのは和郷園代表の木内さんだった、と言うことなんだが、農業はまだまだイノベーションの余地が残った産業、ということ。

木内さんや伊原さんのような先人が試行錯誤を重ねた結果、次第に技術も改良されて効率化が進む。そうなれば、参入障壁が低くなって、農業をしてみよう、という人が増えていくのかもしれません。約半日のセミナーでしたが、参加者の皆さんもさまざまなこと考え、参考にされたんじゃないかと思っています。