大方の見るところ、次の総選挙で相対的に多数になるのは自民党だから、次の首相は安倍晋三氏だと思われるが、ロイターの伝える彼の経済政策は、民主党より支離滅裂だ。
中でも重要なのは、金融政策だ。安倍氏は「インフレ目標の達成のためには無制限に緩和をしてもらう」というが、こういう無責任な政策を公言するのは危険だ。日銀が無制限にマネタリーベースを増やせば、ハイパーインフレが起こることは自明である。それは通貨の信認が毀損されるからだ。
安倍氏は「マネーを増やしていけばどこかでマイルドなインフレになる」と信じているのかもしれないが、残念ながらそういうことは起こらない。次の図は各国の中央銀行のバランスシートのGDP比だが、日銀はECBと並んで世界最大である。安倍氏の賞賛するFRBの2倍近い。
なぜそういうことが起こらないかも理論的に説明できる。金利がゼロに貼りついた流動性の罠では、マネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えないからだ。これは大学1年生の試験問題なので、安倍氏が自分で考えることをおすすめしたい。
安倍氏の主張する「マイナス金利」も、ケインズの時代から提案されているものだが、冗談以上になったことがない。デンマークなどで実施されているが、市中銀行が中央銀行に預金しないで現金を保有するだけだ。
金融政策がアグレッシブな割に、最大の争点となるエネルギー政策は曖昧だ。「3年の間に再稼働できるところは再稼働していく」というのは、原子力規制委員会が非公式に出している「1年程度」という目標より長い。実は自民党の首脳には原子力タカ派が多いのだが、選挙ではそれを隠しているのだ。原子力を推進してきた自民党が、その責任を総括しないで「脱原発」の国民感情に迎合するのも無責任だ。
野田首相が争点にしようとしているTPPについても、「反対しているのは聖域なき関税撤廃を参加の条件にすることだ」という曖昧な表現だ。「聖域なし」などということは決まっていないし、そもそも交渉はこれからなのだから、こういう条件をつけるのはナンセンスである。農協などの古い集票基盤に依存する「自民党らしさ」は変わっていないようだ。
全体として、まともな経済政策のブレーンがいないという印象はまぬがれない。特に1000兆円を超える政府債務をどうするのかという緊急の問題に言及しないで、「公共投資を増やす」とか「景気回復まで増税しない」というのは無責任もはなはだしい。首相としての資質で比較すると、野田首相のほうがずっとましだ。次の総選挙では「野田民主党」にがんばってほしい。