意外に多い? 反社会勢力の不当要求に屈する企業 --- 山口 利昭

アゴラ

警察庁が発表したところによりますと、暴力団などの反社会勢力から不当な要求を受けた企業のうち、2割弱の企業がこれを拒めずに、一部でも要求に応じたことがあるとのことだそうです(過去5年間の企業行動が対象 11月15日付け日経新聞夕刊より)。また不当要求の内容も「因縁をつけて金品や値引きを要求」することが圧倒的に多く、その脅し方も「企業が不安になるような漠然とした危険」をもって威嚇するというものが大半を占めているようです。


なお、こういった不当要求に対する企業側の対応策も進んでいるようでして、暴力団排除条項を契約書に明記している企業が6割~8割程度であり(大きな会社だと9割以上)、また暴排ガイドラインを策定して社内外に宣言している企業も増えているのが実態のようです。ただ、それでも反社会勢力からの不当要求に応じている企業数が横ばいということは、企業の対応策の実効性に疑問が残るところかもしれません。とりわけ反社会勢力との共生者問題、背後にブラック組織が控えている「半グレ」問題などが増えているとなりますと、企業に対する脅し方が「不安になるような漠然とした危険の告知」が多いことと通じるのではないかと。

いまから4年前に書きましたエントリー「食品偽装事件にみる企業コンプライアンスとは(その2)」(2008年9月10日)でもご紹介しましたとおり、内部告発については裏通報窓口のようなものが現実に存在します。いわゆる反社会勢力が関与する「投書箱」のようなものです。行政による追及から難なく逃れていた会社が突如不正を自主申告する、という事態などは、ひょっとすると裏通報窓口からの通告が端緒になっているのかもしれません(あくまでも推測ですが)。会社の不正が裏窓口に持ち込まれますと、会社との取引で高額な口止め料をを要求する例もあるようです。上の調査結果にある「因縁をつけて金品や値引きを要求される」ケースの中にも、こういった事案のように企業の影の部分を捕まえられて金品を要求される、ということもあるはずです。

今年6月に出版されました須田慎一郎氏の新書「暴力団と企業─ブラックマネー侵入の手口─」では、反社会勢力による最近の経済活動が興味深く紹介されています。暴排条例、改正暴力団対策法の施行によってますますファジーになっている活動の一端が垣間見れます。この本の最後は「企業が反社会勢力に狙われないようにするためにはどうすればよいか?」との問いに対する自らの答えで締めくくられています。

暴力団が企業に浸透する手法はほとんどの場合、その弱みや暗部につけ込むというものだ。暴力団対策とはつまり、不正を近づけないことより先に、自分の内側から不正を排除するところから始まるのである。これを肝に銘じておくべきである。まずは自分がクリーンになる、たまに汚れたところが出てきても、それを隠さずに洗い出すこと。それさえすれば、100%とは言えないまでも、自分の過ちによって反社会的勢力の手中に落ちる事態だけは避けることができる。

企業自身が反社会勢力を活用する気がなくても、社員とのトラブルや経営支配権争いなどによって、企業の暗部が「その筋の世界」に投げかけられることは十分に考えられます。これを裏で処理しようとするならば、ダスキン事件や蛇の目ミシン事件と同じように、苦しみぬいたうえで表の世界では損害賠償責任を負うということになってしまいます。
須田氏のおっしゃるとおり、まずはクリーンになること、たとえ汚れても、自分で洗い流すことが反社リスクを低減させる近道だと思います。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年11月16日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。