日経新聞によると11月25日のテレビ朝日の討論番組で野田首相が「安倍さんのおっしゃっていることは極めて危険です。なぜなら、インフレで喜ぶのは誰かです。株を持っている人、土地を持っている人は良いですよ。一般の庶民には関係ありません。それは国民にとって大変、迷惑な話だと私は思います」と述べたようです。
インフレにはよいインフレと悪いインフレがあります。ですが、日本ではインフレは何が何でも悪の根源のような見方をする傾向が強いようなのですが、その一つの理由として戦後直後の日本のハイパーインフレが頭にあるのかもしれません。それは第一次世界大戦後のドイツや80年代にブラジルやアルゼンチンが経験したように日本でも1945年から1949年の間に消費者物価指数が100倍ぐらいになっています。
もう一つは1973年の第一次石油ショックにともなう狂乱物価のイメージでしょうか? 1974年の消費者物価指数は23%上昇し、その頃の公定歩合は最も高かったときで9%もあったのです。石油ショックの際にはトイレットペーパーが市場からなくなるという噂で家族総出でスーパーで行列を作ったものです。今の40代後半から上の方には記憶があるかと思います。
しかし戦後直後のハイパーインフレは戦債返済という問題が主因で石油ショックは第四次中東戦争が引き金でした。今、少なくとも日本では戦債というファクターはありません。ではオイルショックは再び起こりえるか、という点に関しては70年代とくらべはるかに小さくなったと思っております。理由は原油への依存度が下がってきていること、特にアメリカのシェールガス革命や今後増えていくであろう太陽光発電、風力発電を始め、新エネルギーの開発も進むことから石油を政治的な圧力材料として使いにくくなることが上げられます。予断ですが、日本は石油精製品の輸出国であります。極端な話ですが、日本が原油を輸入しないと精製施設を持たない産油国に石油精製品を送り届けられない状態にあるのです。
それ以上に産油国にとっては自国の政策上今、石油収入が極めて重要であってそれに影響が出るような政策は取りにくいだろうということです。それこそ、石油ショックに似たような状況が生じたら中国がレアメタルで苦い想いをしたことと似たようなことが起きないとも限らないと思われます。
では、インフレで喜ぶのは誰でしょうか? デフレよりインフレのほうが基本的には国民の富に繋がります。まず、年金などの基金は潤います。株式は上昇しますので機関投資家のみならず、個人投資家も資金が回転を始めます。結果として消費が良好となり、血液のようにめぐりめぐって株を持っていない庶民にも好影響が出るのです。また、企業ベースでは消費の上昇は雇用の改善、賃金の上昇を引き起こします。国の財政も改善します。
不動産については停滞化しつつある個人持ちの不動産の流動化の可能性が大いにあるかと思います。価格が上がれば不動産取得への動きも活発なり、経済は好転していきます。
つまり、インフレがスタグフレーションではなく、妥当な範囲であり、コントロールが可能な限りにおいて2-3%程度のインフレは健全であると考えても良いと思います。ですので冒頭の野田首相の発言が真意をもってそう述べたのだとすれば極めて狭義の意味の「株も不動産にも縁がない大衆にとってインフレは直接的にはメリットがない」とかなり偏見的意見であると捉えられても仕方がありません。
問題は長年インフレを忘れていた国民のみならず、企業や政府がその準備が出来ているか、ということです。値上がりという言葉のインパクトが企業間取引において今までと逆方向になるわけで購買担当者の発想の転換を進めなくてはいけないでしょう。北米では価格上昇が当たり前ですがそういうマインドにセットしなおすのは一苦労しそうです。
日本では引き続き新党が生まれ、くっつきというゲームが展開しております。選挙まで20日となって今更何が準備できるのかと私はあきれかえっているのですが、それぐらい芯がしっかりした政治家がいないということかもしれません。その点韓国の大統領選挙は一騎打ちに絞り込まれたわけですから日本だけ何時までも戦国時代というわけにも行かない気がいたします。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年11月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。