インフレ目標と首相の責任

池田 信夫


昨夜のニコニコ生放送は、金融政策というむずかしいテーマだったが、池尾氏と山崎氏にていねいに話を聞くことができ、68%が「よくわかった」と答えてくれた。この種の番組としては一番わかりやすいと思うので、マクロ政策に関心のある橋下徹氏にもぜひ見ていただきたい(ニコ生の会員なら録画が見られる)。


くわしい議事録はのちほどアゴラに掲載するが、最大のポイントはインフレ目標を設定することではなく、それをどうやって実現するかということだ。山崎氏のあげたのは、次の4つの方法だ。

  1. 低金利を長期にわたって続ける時間軸政策

  2. リスク資産の購入
  3. 外債の購入
  4. 子ども手当のような給付金

このうち1は日銀がすでにやって大した効果がないが、それ以外は狭義の金融政策とはいえない。竹中平蔵氏も「1~3%のインフレ目標を掲げて国債を買え」といっているが、これは国債が暴落した場合、日銀のバランスシートが毀損するリスクがあるので、池尾氏もいうように財政政策である。山崎氏の推奨する4は明らかに財政政策であって、日銀が行なうことはできない。

「金融政策でも財政政策でもいいから、効果があるならやればいい」というのはその通りだが、失敗した場合の責任の所在は違う。通常のオペレーション(短期国債の売買)の責任は日銀総裁が負うが、長期国債や外債を大量に買って暴落した場合は日銀の損失を一般会計から補填するので、閣議決定か国会の議決が必要だ(これは山崎氏も同意)。

政府債務が1000兆円を超えた状況で、安倍氏のいうように200兆円の国債を発行することは、財政破綻というテールリスクを取る賭けである。山崎氏の「今は何も起こらないのだから、起こるまで買い続ければいい」というのは、「ガラスをいくら押してもへこまないから、思い切り押せばいい」というのと同じだ。無限に強く押せば、必ず割れる。それが2%割れたところで止められると信じるのは、日銀の能力を買いかぶりすぎだろう。

インフレのメリットははっきりしないが、財政破綻のダメージは日本経済にとって致命的だ。人為的インフレという賭けは政策としてはありうるが、そんな大きなリスクをおかすことは日銀にはできない。安倍氏が首相になったら、判断するのは彼なのである。