新政権に求めるメディア政策 --- 中村 伊知哉

アゴラ

総選挙から一夜が開けました。
経済、TPP、原発……論点は多岐にわたりました。
でも、メディア政策についてはほとんど議論になりませんでした。

公約にあることはあったんですよ。自民党は、災害に強い情報インフラの整備、サイバーセキュリティ対策の強化、クールジャパンの国際展開などを掲げていましたし、民主党はスマートメーターの普及促進、マイナンバーの利用開始、電波オークションの実現などを説いていました。公明もスマートメーターの普及や医療情報化の推進、アニメなどの海外展開支援を挙げていました。ネット選挙解禁は3党ともに賛成しています。


3年前、民主党政権に移行する際、高く掲げられたマニフェストには唯一「ネット選挙解禁」がうたわれていました。それさえ全く前進せずにおしまい。だから、これからの最長4年についても、全く期待していません。してはいませんが、新政権、改めて期待したい政策はあります。

思い出すのは、3年前の選挙から半年後に講じられた民主党「情報通信八策」です。発足当初の政権は、情報通信法に後ろ向きで、規制緩和にも通信放送融合にも電波開放にもソフトパワー発揮にもネガティブ。ぼくらは批判を強めました。それもあり、一部若手議員が「メディア政策を講ずべき」と動き、情報通信議員連盟が結成されて、八策が策定されたのです。ぼくも協力しました。以下のとおりです。

  1. 情報通信分野におけるタテ割り打破のため、強力な推進体制をつくる
    (「情報通信文化省」設置、「情報通信利活用促進一括法」策定等)

  2. 情報通信関連投資の倍増により、100兆円超の新市場を創出する
    (電波の開放、減税措置、スマートグリッド・ITS・デジタルサイネージ推進等)

  3. 電子政府と業務見直しを一体的に進め、行政コストの5割削減を目指す
    (「電子政府推進法」策定、国民ID制度構築等)

  4. 情報通信を最大限活用し、子どもたちの学力・創造力を向上させる
    (小中高校でのデジタル教科書100%普及、全教室への無線LAN整備等)

  5. 医療の情報化により、国民本位の医療サービスを実現する
    (電子カルテ、レセプト電子化推進等)

  6. 「光の道」の100%普及を目指し、50兆円規模の電波ビジネスを生み出す
    (新たな電波資源の開放・利活用促進等)

  7. デジタルコンテンツの普及により豊かな暮らしを実現する
    (コンテンツ海外売上比3倍増、NHKアーカイブの全面ネット開放等)

  8. 情報通信を活用し、地球温暖化や災害から国民を守る
    (スマートグリッド推進、地域防災情報システム全国展開等)

3年間で進んだものもあります。6 光の道は関連法案が成立し、競争環境が前進するとともに、ホワイトスペースの開放など電波行政も前のめりです。8 防災対策は大震災という不幸があり、否応なく対策が強化されました。問題は、進んでいない部分です。2の投資倍増、新市場創出は赤点です。1のタテ割り打破も進んでいません。

幸いにも、メディア政策は政権が変われどそう路線に違いはありますまい。技術進歩の恩恵を利用者に還元すること。経済と文化の発展をもたらすこと。民主党の八策も、それ以前の自民党の政策をシャープにして、政治主導で進めようとしたものです。

新政権にお願いしたいのも、民主党八策のような政策をベースにしつつ、民主党ができなかった改革を強力に進めてほしいということです。
ぼくが希望する重要事項5つ、「五箇条の御期待」を掲げておきます。

  1. 新メディア産業政策の推進
     サイネージ、スマグリ、オープンデータ、ICT医療、電波開放。

  2. デジタル教科書の2015年整備
     デジタル教科書正規化のための法整備と国際標準化。

  3. コンテンツの海外展開推進
     海外向けチャンネルの構築とNHKネット配信義務化。
     電波利用料のコンテンツ支援財源化。

  4. 文化省の設立
     知財・IT政策の連携、ハード・ソフト政策の連携。

  5. ネット選挙解禁
     とっととやるように。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年12月17日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。