人口増が住宅市場を活性化させる要素の一つ --- 岡本 裕明

アゴラ

カナダの住宅市場は2008年のリーマンショック後も比較的堅調な推移を見せ、価格トレンドは右肩上がりを継続していましたが、この1年は市場のエネルギーが減少し価格こそ一年で1.7%程度と若干の下落に留まっていますが、取引件数においては一年前と比べて27.6%も下落しています。

この流れをどう読むか、専門家の意見も割れています。昨日のローカル紙には経済学者の意見として今後、25%もの価格下落もありうるとしている記事も紹介されています。バンクーバーの市場の特殊性を含め、もう一度検証してみましょう。


なぜバンクーバーの不動産は高いのか、という原点に一度立ち戻ってみましょう。カナダでもっとも温暖な気候の大都市でアジアのゲートウェイ、産業は資源の輸出基地。製造業は極めて少なく、いわゆる景気との非連動性がある都市といったほうがよいでしょう。その昔はカナダのリタイア層がトロントやカルガリーからも集まってきました。更には中国系富裕層の移民も多く、個人資産額は安定しているということです。

私が開発して販売したいわゆる高級コンドミニアム群も住宅ローンを使った人は全体の1割に満たなかったはずで購入者はキャッシュリッチであるといえましょう。

結果として中古住宅市場において価格が下がってきているという情報から売主が「そんなに安くするのなら売るのを止める」という余裕があるため、取引件数は下がっても取引価格は下がらないという奇妙な状態がこの2年以上続いているのです。

考えてみればアメリカで住宅市場が崩れたのは住宅ローンを払えない人が競売にかけられ、更に金融機関は不動産を処分し、現金化して損失を確定させることを急いだことで価格が急落した原因となっています。バンクーバーの場合、売主がそこまでするなら売らないという余裕が結果として価格崩落を防いでいるともいえるのです。

今日入手した銀行の経済部のBC州の住宅事情の分析では住宅着工件数は今年が7.3%増、来年はマイナス13.1%、再来年がマイナス0.5%となってます。また、中古住宅の取引件数は今年がマイナス11.2%ながらも来年は4.4%増、再来年がマイナス0.4%となっています。つまり、今年は新規物件が比較的多く、限られた需要の中で中古物件の取引件数が下がったものの来年は新規供給が減るため、中古市場はやや回復する、というふうに読めます。

私はバンクーバーについてはすでにライフスタイルチェンジによる戸建からコンドミニアムへのシフトの大きな波はすでに完了しており、今後は大きなうねりはないと見ています。よって、住宅が売れるための絶対条件である人口増が起きない限りこの街の不動産は今後しばらくは大きく跳ね上がることもないという見立てです。

では人口増は起きるのか、という件についてはカナダは移民国家であり、国家戦略上、毎年一定人数を経済移民として受け入れてきました。昨今、そのポリシーをめぐり見直しを行っているようでありますが、人口がアメリカの約十分の一しかないという点を考えれば移民は一定数を受け入れていくポリシーに変更はないと見ています。また、カナダも日本と同様高齢化が進んでいるため、若い移民を受け入れることで経済の活性化を維持するというのは政府レベルでの認識になっています。

私が今日、バンクーバーの不動産市場について書くのはもちろん、バンクーバーの不動産に興味がある方への参考となればというのが第一義ですが、日本の不動産を活性化するにはどうしたらよいか、というヒントが隠されていると思います。長年、住宅の需要と供給の数字を見続けていると体感として住宅市場はどうやったらあがるのか、というのが見えてしまうものなのです。

今日はこのぐらいにしておきましょうか?


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年12月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。