きょうは久々にドルが1円以上も下げて88円台になった。甘利経済再生相の「過度な円安になれば輸入物価にはねかえって国民生活にはマイナスの影響も出てくる」という発言が利食い売りのgood excuseになったようだが、すぐ89円台に戻した。
ドル/円の名目為替レート(緑)と実質実効為替レート(赤)
某外銀のファンドマネジャーによると「現在のドル円レートは当社の予想レンジの上限をすでに突破した」とのことだが、上の図のように実質実効為替レートでみると、2008年まで毎年ほぼ3%ずつ下げていた円が金融危機の影響で跳ね上がり、過大評価されている。次期日銀総裁の候補とも目される岩田一政氏によれば「1ドル=95円が適正レート」だとのことだが、これは実質実効レートのトレンドを延長すれば出てくる(それでもまだ過大評価)。
安倍首相は、こうしたトレンドの反転の時期に出て来た「時の氏神」である。彼の願望どおり1ドル=100円は不可能ではない。甘利氏は100円以下のレートは許容しない(逆にそこまでは許容する)と発言したが、そこで止めることができるかどうかはわからない。ドル売り介入をするとしても、数兆円が限界だろう。世界の外為市場で動く資金は1日5兆ドルを超えるので、相場が大きく動いたら政府の介入では円の暴落は止まらない。
要するに日本は貿易立国の時代を過ぎ、貿易赤字を所得収支の黒字(金利・配当収入)で補う「年金生活者」になったのだ。日本の長期停滞は、円安で解決するような簡単な問題ではない。これから大事なのは、もう余り増えない資産の価値を守ることだが、いまだに高度成長の夢を忘れられない政治家とマスコミが円の目減りを喜んでいるのは救いがたい。